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「靖国神社」の基礎知識

政治・外交 社会

毎年8月15日の終戦記念日になると、首相や閣僚の靖国神社参拝問題が大きくクロースアップされる。そのたびに、中国、韓国などが厳しい批判や反発を繰り返し、関係が冷却化している。安倍晋三首相は2013年12月26日に靖国神社を参拝したが、その影響で日中、日韓両国関係は急速に悪化した。国内外に波紋を投げかける靖国神社とは、そもそもどのような神社なのか。それを取り巻く宗教的、歴史的、そして政治的な意味合いなどについて、日本人ですら意外に知らない基礎情報をまとめてみた。

中韓両国が猛反発した小泉首相の8月15日参拝

靖国神社のあり方に新たな問題を投げ掛けたのは、2001年に首相となった小泉首相だった。小泉首相は、同年4月の自民党総裁選挙で、「首相になったら8月15日にいかなる批判があろうと必ず参拝する」と明言した。しかし、中韓両国などの反発から、首相就任後、初めて参拝したのは8月13日だった。公約を破っての参拝に、国内からは「選挙対策でしかなかった」との批判も受けた。

小泉首相は参拝にあたって、「アジア近隣諸国に対しては、過去の一時期、誤った国策にもとづく植民地支配と侵略を行い、計り知れぬ惨害と苦痛を強いた」と述べるとともに、「こうしたわが国の悔恨の歴史を虚心に受け止め、戦争犠牲者の方々すべてに対し、深い反省とともに、謹んで哀悼の意を捧げたい」との談話を発表した。

しかし、小泉首相は、退任を前にした5年後の2006年8月15日早朝、現職首相としては中曽根元首相以来21年ぶり、自身としては6回目の靖国神社参拝を行った。モーニング姿で本殿に入り「二拝二拍手一拝」の神道形式ではなく一礼形式の参拝を行った。同年は靖国神社の宗教法人化からちょうど60年目にあたった。

2006年8月15日に靖国神社を参拝した小泉純一郎首相(提供・時事)

中国、韓国が猛反発し、中国外務省は「日本軍国主義者らによる戦争の被害国の国民感情を傷つけ、中日関係の政治的基礎を破壊するもの」との非難声明を発表。韓国外交通商省も、「深い失望と憤りを表明する」との報道声明を発表した。

第1次安倍内閣では、“あいまい作戦”を堅持

安倍晋三首相は、第1次安倍内閣の2007年4月下旬の例大祭に、真榊(まさかき)を奉納し、その費用5万円を私費で納めた。その事実が発覚したのは5月で、奉納した鉢植えの木札に「内閣総理大臣・安倍晋三」と書かれ、本殿そばに設置されていた写真がスッパ抜かれたからだ。安倍首相は「お供え物をしたかしなかったかについて、申し上げるつもりはありません」と繰り返した。

安倍首相は、靖国参拝について「行くか行かないかについて申し上げるつもりはありません。行ったか行かなかったかについても確認することはありません」という“あいまい作戦”の立場を堅持した。

一方、政権交代を実現した民主党政権時代(2009~2012年)には、首相の参拝は行われていない。しかし、野田内閣当時の2012年に、松原仁国家公安委員長、羽田雄一郎国土交通相の2閣僚が終戦記念日に参拝した。

安倍首相、2013年12月26日に公式参拝

しかし、第2次安倍内閣になると、麻生太郎副総理兼財務相、古屋圭司拉致問題相、新藤義孝総務相の3閣僚が2013年4月に靖国神社を参拝した。安倍晋三首相も同日、神前に捧げる供え物「真榊」を奉納した。

また、1997年に再結成された超党派の議員連盟「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(会長・尾辻秀久自民党参院議員)は今年4月23日、春季例大祭に合わせて靖国神社に参拝したが、参加者は国会議員168人に上った。100人を超えたのは2005年10月以来のことだった。

中韓両国の反発が強まる中、安倍首相は2013年12月26日、首相就任1年目を期したこの日、モーニング姿で公式参拝した。同時に鎮霊社にも参拝し、首相官邸のホームページに日、英、中3言語による「安倍内閣総理大臣の談話〜恒久平和への誓い〜」いう談話を掲載した。

国立戦没者追悼施設構想も具体化されず

靖国参拝問題の解決策、打開策はあるのか。

自民党は一時期、靖国神社に対し、A級戦犯の合祀の取り下げ、または分祀することを打診する。しかし、靖国神社側は、いったん神として祀った「神霊」を取り下げることはできないと拒否した。

その後も、A級戦犯の分祀と無宗教の国立戦没者追悼施設の建設などが検討されてきたが、決着していない。分祀については、靖国神社側が拒絶している上に、政府も政教分離の原則から宗教法人である靖国神社に強要できない。1999年の小渕内閣時代、当時の野中広務官房長官が靖国神社を宗教法人から「特殊法人」に切り替え、分祀することの検討を表明したが、実現しなった。

一方、国立の戦没者追悼施設の建設については、2001年の小泉内閣時代に「追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会」が設置され、1年後に無宗教の国立の戦没者追悼施設の設置が必要との提言をまとめたが、結局、具体化されることはなかった。

世界のほとんどの国は、米国のアーリントン墓地のような国立の戦没者慰霊施設を持っている。日本にも靖国神社近くに「千鳥ヶ淵戦没者墓苑」があるが、身元不明者や引取り手のない遺骨を安置する施設で、国家管理のもとでの戦没者慰霊の施設とは言いにくいのが現状だ。

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