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「靖国神社」の基礎知識

政治・外交 社会

毎年8月15日の終戦記念日になると、首相や閣僚の靖国神社参拝問題が大きくクロースアップされる。そのたびに、中国、韓国などが厳しい批判や反発を繰り返し、関係が冷却化している。安倍晋三首相は2013年12月26日に靖国神社を参拝したが、その影響で日中、日韓両国関係は急速に悪化した。国内外に波紋を投げかける靖国神社とは、そもそもどのような神社なのか。それを取り巻く宗教的、歴史的、そして政治的な意味合いなどについて、日本人ですら意外に知らない基礎情報をまとめてみた。

首相、閣僚の公式参拝、政教分離原則に抵触

首相、閣僚の参拝では、靖国神社の宗教法人化後では、1951年10月18日に当時の吉田茂首相をはじめ閣僚、衆参両院議長が秋季例大祭に公式参拝した。これが戦後では最初の公式参拝だった。

ただし、政府はその後、1955年に統一見解をまとめ、「政府としては、内閣総理大臣その他の国務大臣が国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは、憲法第20条第3項(政教分離の原則)との関係で問題がある」との立場を明確にした。

公式参拝の憲法適合性についても、政府は「違憲とも合憲とも断定していないが、このような参拝が違憲ではないかとの疑いをなお否定できない」との立場をとっている。その上で、政府は、「従来から事柄の性質上慎重な立場をとり、国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは差し控えることを一貫した方針としてきた」としている。

しかし、その後の歴代自民党内閣では、首相、閣僚らによる私的、公的を含めた靖国神社の参拝が継続的に行われてきた。

最大の問題は「A級戦犯」の合祀

東京裁判における東條英機元首相(提供・aflo)

問題は、「A級戦犯」の合祀にある。A級戦犯とは、戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で、ポツダム宣言6条に基づき定義された戦争犯罪(「平和に対する罪」)で有罪判決を受けた者のこと。

靖国神社は1978年10月17日、A級戦犯として死刑ないしは終身刑で獄死した東條英機元首相(陸軍大将)、広田弘毅元首相(外交官)、平沼騏一郎元首相(枢密院議長)ら14人を国家の犠牲者である「昭和殉難者」として合祀した。この中には、広田弘毅など非軍人が含まれているが、これは例外的な措置として行われた。

A級戦犯が合祀された経緯はやや複雑だ。戦後、200万人以上の戦死者が合祀されないままとなり、遺族から合祀の要望が出されていた。しかし、宗教法人となった靖国神社だけの判断では合祀できず、厚生省援護局が1956年に全国に通達を出し、「遺族援護法」と「恩給法」のいずれかの適用を受ける戦死者の合祀を開始した。

公表を控えた「A級戦犯」の合祀は1978年

戦犯の合祀は、1959年にB,C級戦犯から始められ、A級戦犯14人ついては70年初めに靖国神社の崇敬者総代会で合祀することが了承された。しかし、国民感情への配慮から実現したのは78年だった。当初、公表は控えられたが、翌年の報道で知られることになった。

だが、A級戦犯の合祀された後も、自民党歴代内閣の首相は靖国参拝を行ってきた。福田赳夫(1回)、大平正芳(3回)、鈴木善幸(9回)、中曽根康弘(10回)、橋本龍太郎(1回)、小泉純一郎(6回)、安倍晋三(1回)の7人の首相が、首相在任中に参拝をしている。福田赳夫首相は合祀をした翌日に参拝したが、合祀された事実を報告されていなかったとしている。また、宮沢喜一首相は、参拝したかしないかを明らかにしていない。

昭和天皇による靖国神社「親拝」は、戦後になって合計8回(45年、52年、54年、57年、59年、65年、69年、75年)行われた。しかし、1975年11月21日を最後に天皇陛下の親拝は中止されている。その理由について、昭和天皇がA級戦犯の合祀に不快感をもっていたからだとの意見、見方もある。

公式参拝への道筋づくりめざした中曽根内閣

中曽根首相も1985年4月22日に参拝したが、それまでは海外から抗議や懸念が表明されるようなことはほとんどなかった。 しかし、同年8月15日の中曽根首相の参拝に対して、朝日新聞が8月7日付で「靖国問題」を特集、中国政府は8月14日に初めて公式に靖国神社の参拝への懸念を表明した。85年は、日露戦争80年、終戦40周年の節目の年だった。

それでも、中曽根首相は終戦記念日の8月15日に閣僚17人とともに参拝し、「二拝二拍手一拝」の神道形式ではなく本殿で一礼し、公費から供花料を支出した。「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根首相の狙いは、憲法に抵触しない形での「公的参拝」への道筋づくりであった。当時の藤波孝生官房長官の私的諮問機関「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」(靖国懇)を84年に発足させ、85年8月9日に公式参拝が可能との報告書をまとめ、発表している。

藤波官房長官は8月14日に「中曽根首相は、首相としての資格で靖国神社を参拝する。憲法の政教分離原則との関係は強く留意しており、公式参拝が宗教的意義を持たないものであることを参拝方式などで明らかにする。(かしわ手を打たず、玉串料でなく供花料を公費から支出するなどの)今回の方法であれば、憲法が禁止する宗教的活動に該当しないと判断した」との談話を発表した。

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