日本の刑事司法を問う

本格化する取り調べの可視化 まだまだ再考の余地あり

社会

江川 紹子 【Profile】

刑事司法は2019年、いよいよ本格的な取り調べの可視化時代に入る。16年に行われた刑事訴訟法の大幅改正で、検察官手持ち証拠のリストの開示や、他人の事件の捜査・公判への協力と引き換えに、自分の事件については免責もしくは軽い処分にしてもらう日本版司法取引などが順次始まってきた。改正法はその行程表の締めくくりとして、19年6月末までに取り調べの全課程の録音録画を行うよう捜査機関に義務付けている。

全ての取り調べ、あらゆる任意の事情聴取でも録音を

また、起訴勾留中に別の事件について”任意”の取り調べを行う際、捜査側が「録音録画は義務ではない」としている点も、考え直す必要があるだろう。現実に身柄拘束が続き、24時間捜査機関に管理されている状態を、在宅と同じ扱いにするのはやはり無理がある。裁判で任意性が争われた時、「任意だから録音録画しなかった」では済まないのではないか。今後、実際の事件でこの点が争われた時には、裁判所は適切に判断し、捜査側に再考を促してもらいたい。

取り調べや事情聴取の状況を録音しておけば、調書や捜査報告書などの記載がより正確になる。適正な取り調べをしていれば、それが容易に証明される。可視化は、捜査機関にとっても悪いことではない。私は法律で義務付けられたもの以外にも、全ての取り調べやあらゆる任意の事情聴取について、まずは録音を行うべきだと思う。

録音だけなら大がかりな装置も必要なく、小さなICレコーダー1つで実施可能。事件を認識した直後から行われる警察官の聞き込み捜査も、すべて録音しておけば、記憶が新しいうちの証言を正確に記録しておける。通常でも、3000円台で1000時間以上の録音が可能な機種がある。都道府県の警察ごとに入札して一括購入すれば、さらに安く買えるだろう。全国の警察官は約26万人。1台3000円として、1人1台ずつ配って7億8000万円だ。これで誤った捜査や裁判が激減するのであれば、安いものではないか。

バナー写真:取調室の様子が写し出された別室のモニター画面。右の人物は容疑者役の警察職員=2016年3月、東京都内の警視庁施設(時事)

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ジャーナリスト。1958年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。1982〜87年まで神奈川新聞社に勤務。警察・裁判取材や連載企画などを担当した後、29歳で独立。1989年から本格的にオウム真理教についての取材を開始。著書に『オウム真理教追跡2200日』(文藝春秋、 1995年)、『名張毒ブドウ酒殺人事件——六人目の犠牲者 』(岩波現代文庫、2011年)等。 1995年に一連のオウム事件をめぐる報道で菊池寛賞受賞。行刑改革会議、検察の在り方検討会議の各委員を経験。個人blogは「江川紹子のあれやこれや」がある。

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