日本の刑事司法を問う

有罪率99.9%の謎:裁判官、検察官、弁護士はそれぞれの役割を果たしているのか?

社会

村井 敏邦 【Profile】村岡 啓一 【Profile】

学者として長く刑事司法を研究してきた一橋大学名誉教授の村井敏邦氏と、弁護士として刑事事件に深くかかわってきた白鴎大学教授の村岡啓一氏に話を聞く。1回目は、日本の刑事司法が歴史的にたどってきた経緯と現在、「有罪率99.9%」の謎、刑務所の現状と問題点などについて論じてもらった。

「精密司法」と裁判官の「検察官恐怖症」

——なぜ、このような高い有罪率になるのでしょうか?

村岡 それはもう検察が有罪確実なものしか起訴しないから、ということになりますね(笑)。日本の場合は検察官が起訴裁量という大変大きな権限を持っていて、有罪立証が可能であってもあえて起訴しないという選択もできる。これはこれで大変意義のある制度なのですが、先ほども言いましたようにおよそ6割が起訴猶予として、検察官のところで処分が決定してしまっている。一方、起訴した事件は、石橋を叩いて渡るぐらい有罪が確実なものに厳選していますから、純金の精度と見まごうばかりの有罪率を誇ることになるのです。

2016年の検察終局処理人員 112万4506人(刑法犯・過失運転致死傷等・特別法犯)

起訴 31.4%
うち公判請求 7.8%
略式請求 23.6%
不起訴 62.4%
うち起訴猶予 56.5%
その他の不起訴 5.9%
家庭裁判所送致 6.2%

(注)検察統計年報による

2016年の裁判確定人員 32万488人

有罪 死刑 7人
無期懲役 15人
有期懲役・禁錮 5万5017人
実刑:2万1043人
全部執行猶予:3万3974人
拘留 6人
罰金 26万3099人
科料 1962人
無罪 104人
(その他278人)

(注)検察統計年報による

村井 確かに「精密司法」という考え方で、検察官が事件をかなり絞って起訴をしている。しかし起訴された中でもちろん無罪主張もあるわけです。それに対して、裁判官がきちんと耳を傾けているかというところが問題です。

検察官の権限に対する裁判官の意識について、「検察官恐怖症がある」と告白する裁判官もいます。無罪を出すということが非常に大変だということです。もし無罪判決を出したら、検察側はほぼ間違いなく上訴する。自分が判決を出したものを上訴されてひっくり返される可能性を考えると恐くなるのです。だから裁判官は有罪を書くより無罪を書く方がとても難しくなってしまっています。

有罪率を100%に近づけることへの疑問

——外国の有罪率はどうなのでしょうか。

村岡 だいたいの国は、司法取引を含む制度全体を通してみれば9割を超える有罪率ですが、訴訟という形で有罪無罪が争われるケースになると、けっこう無罪も出ています。外国で日本の99.9%有罪率の話をすると、人間が作り出したシステムの中でその数字が出ること自体がおかしいよ、と言われます。

どの国の検察も、最終的に裁判で有罪無罪を決めるには有罪の見通しが必要ですが、それを限りなく審判者ではない検察のレベルで100%に近づけてしまうということについては、外国の研究者たちは疑問を提起しますね。

極端な例を挙げると、英国には「51%ルール」という考え方があります。それは、陪審で有罪の評決を受ける確率の方が高ければ起訴するという考え方です。しかし、これは日本から見るとあまりにも雑すぎる。「rough justice」と言いますけど、これは文化の違いとしか言いようがありません。

村井敏邦・一橋大学名誉教授(左)と村岡啓一・白鴎大学教授

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村井 敏邦MURAI Toshikuni経歴・執筆一覧を見る

一橋大学名誉教授、龍谷大学名誉教授。専門は刑事法。1941年生まれ。一橋大学商学部・法学部卒業。一橋大学法学部教授、龍谷大学法学部教授などを経て現職。2000年5月から03年5月まで日本刑法学会理事長を務めた。09年に弁護士登録。著書に『裁判員のための刑事法ガイド』(法律文化社、2008年)など。

村岡 啓一MURAOKA Keiichi経歴・執筆一覧を見る

白鴎大学法学部教授。専門は刑事訴訟法、刑事実務。1950年生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了(法学博士)。76年4月弁護士登録。一橋大学法学研究科教授を経て現職。主な著作に『日本の刑事司法:平成刑事訴訟法の下での現状評価』(CrimeInfo、2018年)など。

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