福島、元気です!

台湾は日本を映す鏡——台湾の「核食」輸入問題から考える

文化 社会

筆者は台湾が世界でも突出した福島産品への嫌悪を示す理由として、これまでの食品の安全性問題についての人々の疑念や、日本との心理的、現実的距離の近さに起因すると考える。

「核食問題」は、これから日本が台湾とどう向き合っていくかを考える試金石

「台湾は親日」とは最近の日本でよく使われる表現だが、「親日」というのは判で押せば出来上がるものではない。台湾人が持っている日本への感情は多様で複雑だ。親しみや懐かしさ、仕事ぶりや日本製品への信頼といった良いイメージも多いが、マイナスイメージだって少なくない。

戦前に日本の植民地だった時代から、戦後になって日中友好条約による日台断交を経た日本社会が長らく台湾を見失い、東日本大震災をきっかけに再び台湾を「発見」するまでの期間も、台湾は常に日本をそばに見ながらいろんな印象を蓄積してきたのだ。台湾が「親日的」であるというのは、そんな印象の数々を束ねて見た場合にプラスイメージの方が目に付くということでしかなく、その裏返しとして表出した「日本は自国を守るために台湾に犠牲を強いるかもしれず、その時に台湾政府は自分たちを守ってくれないかもしれない」という不安が、今「核食問題」として台湾の人々を脅かしているものの正体のように感じる。また、近ごろ噴出している日本の大企業の品質スキャンダルが、長らく日本クオリティーを信頼してきた台湾の人々の疑念をさらに増幅させていることもある。

日本にとっては、産地の方々が細心の注意を払って放射性物質の影響がないように重ねてきた生産上の努力を無駄にすることなく、明確で科学的な説明をひたすら辛抱強くアピールし、台湾の人々の信頼を少しずつでも積み上げていくことが肝要だろう。そうした意味で「核食問題」とは、これから日本が台湾とどう向き合っていくかを考える上での大きな試金石ともいえそうだ。

ところで嘉君さんは今年の春節休暇の間、今度は写真が趣味のご主人を連れて、再び福島県を訪れた。会津若松に2泊、三島の宮下温泉に1泊し、雪景色の只見線とわらぶき屋根の伝統建築保存地区である大内宿を見て、夫婦でその美しさに深く感動したそうだ。看板屋のご主人にも再会し、「次回は夫婦でうちに泊まりにおいでと言ってくれた」と、さらに深まった交流をうれしそうに報告してくれる嘉君さんを見ながら、筆者まで旅をしたい気持ちに駆られた。実際に嘉君さんの話を聞いて興味を持ち、福島に旅行に出掛けた友達もいて、その実体験の積み重ねは水の波紋のようにゆっくりと輪を広げている。

他人がどう思うか、あるいはどう思われるかより、自分がどのように感じ、考えていくのか。台湾の人々のこうした強さは、日本人にとっても学ぶべきところが多いように思う。

三島町と只見線をPRするカレンダーとエコバッグ(撮影:栖来ひかり)

バナー写真=三島町で地元の方にもらった看板を抱える嘉君さん(撮影:栖来ひかり)

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