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台湾は日本を映す鏡——台湾の「核食」輸入問題から考える

文化 社会

筆者は台湾が世界でも突出した福島産品への嫌悪を示す理由として、これまでの食品の安全性問題についての人々の疑念や、日本との心理的、現実的距離の近さに起因すると考える。

台湾人の中にある「質のいいものは日本、悪いものは台湾」という被害者意識

台湾人の食品輸入に関する不安の表れ方は、日本人が抱えている不安と、まるで鏡のように似ている。日本においても、個人によってさまざまな臆測や印象があり、それが今も消費行動に大きな影響を与えていることは否めない。以前、日本に一時帰国していた際、50年も前に水質汚染の公害が起こった地域周辺で造られた日本酒が、酒の量販店でいまだに驚くほどの安値で売られているのを見かけたことがある。公害は完全に収束しているにもかかわらず、だ。人の心が生みだす「風評被害」は、こんなにも闇が深いのかと感じたのだった。

不信を募らせる要因はまだある。上述の嘉君さんは言う。

「私個人は大した影響はないと思っているけれど、反対する人の気持ちも分かる。例えば以前、友人から日本でたばこを買ってくるように頼まれた。空港の免税店で買うと言ったら、免税店でなく現地で買ってきてほしいと言う。理由は、輸出向けに作っているものより、日本国内向けの方がおいしいからだという。昔から台湾でよく知られている日本製胃腸薬の『わかもと』など台湾で手に入る一般薬でも、日本で売っている物の方が効くと思っている台湾人は少なくない。」

これは根拠のある話ではないし、品質の劣るものを台湾向けに日本が輸出している証拠はない。薬品についても、台湾向けに輸出したもの、台湾で製造されたもの、日本国内で流通しているものと幾つかのパターンがあることで、何らかの違いが起こっている可能性はある。しかし、こういった印象は、どうやら昨日今日生まれたものではないらしい。

別の友人は言った。

「バナナなど、日本で食べる台湾の産品は台湾で食べるよりおいしいと誰かが言っていたし、自分でもそう感じたことがある。『品質のいいものは全部日本へ出てしまい、台湾には質の悪いものが残る』、そんな意識が昔から台湾人にはある。単なる思い込みかもしれないけど、それが転じて日本は台湾へ質の悪いものを出すという被害者意識につながったのかもしれない。」

これも、実を言えば日本のバナナの追熟技術が発達しているためかもしれず、根拠のある話とは言えない。

しかし、往々にして人が他人に持つ印象とは、誤解や思い込みも含めてこれまでに得た小さな経験の積み重ねから生まれるものだ。さらに、肉親や家族・恋人・友人など、その距離が近ければ近いほど、その印象から出てくる感情には複雑な陰影のひだが付く。国家間の関係にも、似たようなことが言える。

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