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台湾は日本を映す鏡——台湾の「核食」輸入問題から考える

文化 社会

筆者は台湾が世界でも突出した福島産品への嫌悪を示す理由として、これまでの食品の安全性問題についての人々の疑念や、日本との心理的、現実的距離の近さに起因すると考える。

政治的な理由だけではない「核食問題」

東京電力福島第一原発事故の後、台湾では福島県を含む近郊5県からの、お酒以外の食品を全面的に禁止している。しかし、過去数年は未検出が続いたなどの実績が評価され、最近は欧米やアジア各国において輸入規制が次々と緩和される中、今や全面禁止を維持するのは中国と台湾のみとなった。また近ごろ中国も規制緩和に向けて動き始めたことから、国際社会に歩調を合わせるべきという議論が台湾でも激しくなり、「核食問題」と呼ばれている。

「台湾は親日」という認識が強い日本では、台湾の輸入禁止措置は政治問題が足を引っ張っているという論調が強いようだ。確かに、就任当初から規制緩和を模索してきた蔡英文政権に対し、野党である国民党系の政治家やメディアがこぞって反対している報道は多い。

しかし、これは本当に政治問題なのだろうか?周りの友人・知人たちの話を聞いたり、会員制交流サイト(SNS)での反応を見たりしていると、台湾の人々が反対しているのには、もっと複雑な背景があるように感じる。

最も大きな理由は、台湾の人々が政府主導の検査を信用できないと思っているところにあるだろう。近年台湾で頻発している「食の安全問題」で、毒性のある添加物を多く含むでんぷん食品から見つかった「毒でんぷん事件」や、有名な食用油メーカーが組織ぐるみで長年リサイクル油を再利用していた「黒心油事件」、可塑(そ)剤など工業用の有害原料が食料品に混入されていた問題など、枚挙にいとまがない。こうした社会問題によって、メーカーへはもちろん、長年そうした状態を放置してきた政府への不信感を、人々は一層募らせている。筆者自身も台湾で子育てをしている母親として、心穏やかならぬ日々を送ってきたことは確かで、「何を信じればいいのか正直わからない」という台湾の人たちの気持ちはよく理解できる。

また、日本への留学経験もあり、日本語も上手で日本人の友達も多い台湾の友人はこう語ってくれた。

「原発事故直後にスーパーで福島産の野菜や水産物が安く売られているのを見かけたことがある。日本人でさえ安くないと買わないものを、どうして台湾人に売るのかという気持ちは正直ある」

この友人は、普段はなるべく科学的な根拠に基づいて理性的に物事を判断しようとする。政治的には「緑(グリーン)」と呼ばれる台湾本土派を支持している。そうした友人でさえ、輸入規制緩和には懐疑的だ。昨年日本を訪れた台湾人旅行者は400万人を超え、人口が2350万人の台湾にとって、計算上は6人に1人が日本に行ったことになる。長年日本に住んでいる在住者や留学生もたくさんいて、多くの台湾人が日本の現実を目の当たりにし、肌で感じていると言える。日本への距離的・心理的な「近さ」。それが「核食問題」の背景の一つと言えるかもしれない。

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