福島、元気です!

「世界で一番福島の食に詳しい料理人になりたい」——福島の「食」をぜいたくに体験する「一日一組」のフレンチ

文化

野嶋 剛 【Profile】

ほとんどの食材を地元福島のもので提供する「HAGIフランス料理店」。オーナーシェフの萩春朋氏に福島食材にこだわる訳を聞いた。

福島は今も200万人が生活している。「福島は元気」だ!

メインは、福島県南部の鮫川村の牛のステーキだ。牛は雄の子牛の肉だ。しっとりと軟らかく、上品な肉の食感で、口の中で柔らかく溶けていく。

子牛のステーキ(撮影:野嶋 剛)

普通、コストのため、雄は育てないで処理してしまうが、牛乳だけ飲ませて育てた雄の子牛を生産している農家と、萩さんは親しくしている。

「牛乳しか飲んでいないので、草の香りがしません。牛乳も母親のものを飲んでいます。1頭から30キロしかお肉が取れません。この肉はももの部分です」

一つの料理には、一つの物語がある。その物語をたっぷり味わうためにも、一日一組というスタイルがぴったりのように思える。

撮影:野嶋 剛

「一日一組は、恋人が一人だけという感じです。お客さんを待つときは緊張します。おいしいと言ってもらうと本当にうれしい。みんな今まではいろいろな理由で食べに来てくれていたのですが、今は料理を食べるために来てくれる。その人たちのために、あなただけの料理を食べていただきたいと思って作っている。例えば今お出ししているパンはお店に来られる前に作って焼き上げたのですが、出来たてを食べればみんなパンはおいしいんです。でもお客さんがたくさん入ってくるお店ではそうはできません」

最後にも感動が待っていた。天然氷と福島イチゴのかき氷だ。ちょっと他では食べられないデザートである。見た目も美しく、味も爽やか。そして、福島の魅力を象徴するような最後の一皿だった。

福島イチゴのかき氷(撮影:野嶋 剛)

福島の食材というだけで、台湾など海外の方々はびっくりするかもしれない。しかし、思い出してほしい。福島には、今も200万人の人々が暮らしていて、地元の食材を食べながら、子供を育て、生きているのだ。その人々も、放射能に汚染されたものを食べているわけではなく、日本人の知恵と技術を尽くした検査態勢のもので安全と考えられる食品を食べている。

萩さんの店は、その中では、最も精緻を尽くした「福島の食材」を体験できる場所であり、「福島は元気」ということを世界に示すショーケースになっているように思う。食後は、車でいわき駅まで送ってもらい、最終の常磐線の特急で東京に戻った。いわきまでは、東京から電車で2時間と近くはない。しかし、日帰りしてでもまた訪れたいと思える体験を与えてくれる店である。

萩春朋シェフと筆者(提供:野嶋 剛)

バナー写真=「HAGIフランス料理店」のオーナーシェフ、萩春朋さん(撮影:野嶋 剛)

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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