福島、元気です!

「世界で一番福島の食に詳しい料理人になりたい」——福島の「食」をぜいたくに体験する「一日一組」のフレンチ

文化

野嶋 剛 【Profile】

ほとんどの食材を地元福島のもので提供する「HAGIフランス料理店」。オーナーシェフの萩春朋氏に福島食材にこだわる訳を聞いた。

福島の人々が一生懸命作ったものをお客さんと一緒に共有したい

次の料理は、シラウオやカキ、ダイコンなどが入ったスープの上に、タチウオを焼いたものが載っているユニークな一品だった。複雑なうまみが口の中に広がる。福島・豊国酒造の純米大吟醸「超」が出てきた。

福島・豊国酒造の純米大吟醸「超」(撮影:野嶋 剛)

「郡山のヒラタケから出る陸のだし、相馬のシラウオから出る海のだしの両方が入っています」

次はいわきウナギ。イメージにあるウナギのかば焼きとまったく違う処理だ。こういうウナギの食べ方もあるのか、と感嘆する。生きたままのウナギの皮を剝ぎ、備長炭であぶって、ワインのおりを煮詰めたソースを絡めている。

いわきウナギ(撮影:野嶋 剛)

「ウナギは養殖です。今の福島では、そもそも天然ものの食材は限られています。ジビエも、どんぐりを食べるので使えません。天然きのこも食べられません。天然きのこのスープのおいしさはみんな子供のころから私も覚えているので、今の子供たちに食べてもらえないのはかわいそうだと思います。でも、私は、人々が一生懸命手をかけて作ったものをお客さんと一緒に共有したいと思っています」

そう、福島には、今も食べてはいけないものもある。それらは全て分けられた上で、食べられるものも、度重なる検査を経てから、消費者に渡っている。一つ、質問をしてみた。お店に来て「福島は大丈夫ですか」と質問するお客さんはいないのだろうか。

「自分も元々はおっかなびっくりしていました。お客さんに『踏み絵』を踏ませるのではないかと心配もしていました。しかし、お客さんから一度も大丈夫ですかと言われたことはありません。ちゃんと検査したものは大丈夫だと思ってくれているのですね。今は私も自信を持ってお出ししています」

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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