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「世界で一番福島の食に詳しい料理人になりたい」——福島の「食」をぜいたくに体験する「一日一組」のフレンチ

文化

野嶋 剛 【Profile】

ほとんどの食材を地元福島のもので提供する「HAGIフランス料理店」。オーナーシェフの萩春朋氏に福島食材にこだわる訳を聞いた。

素材をシンプルに調理する

食材探しは、今も萩さんの日課である。予約のある日は、地元の農家を回って自分の目で吟味した野菜を仕入れる。農家を回ることで、料理人としての発見も少なくない。

「自分や周りの食材のいいものを必死に探しました。そうしたら、福島にはたくさんすごい食材があったんです。7年ぐらい本気で福島中の食材を探したら、いつの時期にも、いい食材、おいしい食材があることに知りました。それをスムーズに手に入れるようになったところです」

食材に精通してくると、萩さんが長年学んできた料理の方法も変わってきた。フランス料理はソースを使ったものが中心で、素材は加工されることが多い。萩さんも昔はそうした料理を作ってきた。だが、今作っている料理はその真逆に、あくまで素材をシンプルに調理する料理である。

「シンプルに調理するというのは、料理人にとってつらいことですが、農家の人たちには喜んでもらえると思います。昔、最高のブロッコリーが中華料理店で八宝菜に混ざっていたことを見たことがあります。野菜でもちゃんと素材を生かして調理したら、それを食べるためにお客さんは県外からも来てくれるんです。いい野菜は皿の上から素材のいい香りがしてくるんですね。皿の上にいろいろな味付けするのをやめたら、そういうところも分かってきました」

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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