福島、元気です!

「福島、元気です!」特集を私たちが始める理由

社会

野嶋 剛 【Profile】

30本近い原稿による「福島、元気です!」をスタートする理由は、現在の「福島」を理解し、思考する素材にアクセスできる情報プラットホームの提供にある。

台湾の若者の「福島、お元気ですか?」に感謝

この特集をやりたいと考えたきっかけは、台湾の若者たちが昨年11月、「福島、元気?」という展示を、台北で開いたことだった。台湾の若者たちが、福島について関心を持って、自ら福島に乗り込み、現地の人々と対話し、その情報を台湾に伝えたことに感謝するとともに、ショックも受けた。

私たち日本人も、彼らのように、福島について、何か、自分たちができることを、するべきではないか。なぜなら福島の問題は日本人の問題であり、日本の情報を対外的に発信するnippon.comこそ、取り組むべき課題だからだ。台湾の若者たちが行ってくれた「福島、元気?」の企画に感謝を込めて、この特集のタイトルは「福島、元気です!」とした。

台湾と日本は現在、極めて良好な関係にある。相互往来は空前の活況を呈しており、毎年の訪問者は650万人を超えようとしている。日本の日本台湾交流協会が台湾で行った世論調査でも、台湾の台北駐日経済文化代表処が日本で行った世論調査でも、どちらも「最も好き」という国に5割以上の民衆がお互いを挙げているのである。活発な交流と良好な感情。簡単なようで、なかなか実際には実現が難しいことを成し遂げている現在の日台関係をわれわれは大切にしなくてはならない。

福島の問題があっても台湾の人々は日本に来てくれているし、台湾が日本の福島食品を輸入しなくても、日本人は台湾に観光に行くだろう。ただ、複雑な歴史を経ながら、今ピークを迎えているといえるこの良好な日台関係の中で、唯一、喉に刺さった骨のように痛みを発し続けている福島の問題はいつか解決されなければならない。その時は、台湾の人々も日本の人々も納得のいくような決着点が、お互いの知恵によって見いだされることが大切だ。

この特集「福島、元気です!」がその一助になることを願っている。

バナー写真=地域の復興のシンボルとなっている「かしまの一本松」(福島県南相馬市鹿島区)。約3キロあった松林で、東日本大震災の津波から唯一残ったが、防災林の整備工事が始まるため、今秋に伐採される予定だ(編注:2017年12月27日に伐採された)。工事終了後、地元の有志たちが一本松の種から育てた苗木を、同じ場所に植樹するという、2017年3月10日(時事)

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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