福島、元気です!

「福島、元気です!」特集を私たちが始める理由

社会

野嶋 剛 【Profile】

30本近い原稿による「福島、元気です!」をスタートする理由は、現在の「福島」を理解し、思考する素材にアクセスできる情報プラットホームの提供にある。

筆者は日本人と台湾人半数ずつ

日本からの食品輸入に対して、台湾は、福島県および茨城、栃木、群馬、千葉の近隣4県の輸入を禁止している。この点について、日本側はすでに食品の安全性に問題はないとして、台湾に対して、輸入規制の解除を求めている。しかしながら、台湾の中では、2016年以来、この問題が政治問題化して議論に決着がついておらず、解決に至っていないのは周知の通りだ。

私たちnippon.comは民間のメディアであり、日本政府の立場がどうであれ、台湾の輸入規制の是非について、賛否を含めて一つの方向に誘導する考えはない。

世界貿易機関(WTO)などの国際ルールに従えば、解除が妥当であるという意見もある。欧米や東南アジアの国々には規制を解除した国が大半だ。アジアでは、韓国や中国が台湾と並んで厳しい態度をとってきたが、中国は今年の日中関係改善の中で、この規制緩和について協議に応じる構えを見せている。そして、台湾の中にもいろいろな声がある。

最終的に、輸入規制を解除すべきかどうか、解除するとしたらどのようにするべきか、台湾の人々が決める問題であり、規制について、科学的な根拠があってもなくても、台湾の人々が「嫌だ」と思うものを、無理やり輸入させるようなことはするべきではない。食物の安全性に対する人々の感情は、科学的数値だけでは測り切れないものがあることを私たちは理解している。

しかし、一方で、福島を含む5県の農産物や水産物を普通に日常生活の中で安全だと考えて食べている日本人として、「核災食品」などという差別的な名称が使われていることは残念である。台湾には「福島」について、十分な情報がないことが今日の事態を生んでいるのでないかと私たちは考えた。

そこでこの特集では、まずは、福島についてのさまざまな情報や見解を読者の皆さんに読んでいただくことにした。その内容は科学的なものから福島のグルメ情報に至るまで多岐にわたっており、半数は日本人の筆者、半数は台湾人の筆者によるものになる。

特に統一的な編集方針はない。ただ、福島について、いいことも悪いことも含めて、多種多様で豊富な情報を提供することを目標としている。メディアの役割はここまでだ。これらの文章を読んだ上で、どのように考えるかは台湾の人々に任せたい。

次ページ: 台湾の若者の「福島、お元気ですか?」に感謝

この記事につけられたキーワード

福島 復興 台湾 東日本大震災 福島、元気です! 日本 福島第1原発

野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

このシリーズの他の記事