太平洋の親日国家・パラオの真実

ビジネスの中国か、草の根の台湾か:選択迫られるパラオ

政治・外交

野嶋 剛 【Profile】

パラオは、台湾にとって数少ない外交関係を有する重要な友好国だ。この関係を覆そうと、中国が攻勢を強めている。両国のはざまで揺れる小さな島国を現地リポートする。

長期間かけ市民レベルに浸透した台湾

この点について、駐パラオ台湾大使の曽永光氏は、コロールの台湾大使館でnippon.comの取材に応じ、「私が見たところ、パラオ政府の台湾への姿勢はとても安定しています」と自信を見せた。パラオに大使館を持っている国は、米国、日本、そして台湾の3つだけである。

曽永光氏

「パラオと台湾とは、1999年に国交樹立する以前から密接な関係がありました。農業支援団、技術支援団は、パラオで30年以上の活動歴を持っています。パラオ社会の市民レベルの交流はとても深いのです。私が見たところ、パラオ政府の台湾への姿勢は安定しています。パラオは民主国家であり、民意は政治に反映されます」

コロールの街中を歩いていると、台湾の技術支援によって建てられた施設があちこちにあり、看板には中華民国とパラオの国旗が並んで描かれている。

コロールの街中で見かけた台湾の援助を示す看板

パラオ議会に中国接近の動き

しかしながら、中国の経済攻勢も非常に強まっており、パラオでは、昨年、中国と貿易協定を結ぶべきかどうかの法案が議会上院に提案され、賛成5・反対5(欠席3)で辛うじて否決されることがあった。過去には、中国との国交樹立を求める法案が議会で提出されたこともあった。

台湾の曽大使は「もし、いわゆる親中派が形成されているならば、われわれも状況をつかみ対処しないといけません。しかし法案は議会で否決され、世論の大勢も中国との貿易協定は不適切であるというものでした」と語り、「パラオ防衛」への自信を示した。

パラオが米国と安全保障を含めた事実上の同盟関係に当たる「自由連合盟約」を結んでおり、日本とも近い関係にあることから、台湾とは断交しないという見方をする向きもある。だが、パラオと同じように米国と自由連合盟約を結んでいるミクロネシア3カ国のうち、ミクロネシア連邦は中国と国交を結んでいる。台湾にとって、パラオは安泰と言い切れる状況ではない。

中国の武器は「観光客」

中国が外交において使う最大の武器は、パナマがそうであったように、やはり経済だ。その象徴が、購買力の高まりに伴って海外旅行にあふれ出る中国人観光客だ。その国に観光ルートを開くことで経済効果の「実物」を見せつけるという戦略は、過去にも香港や台湾、韓国で使われてきた方法である。

パラオ政府の最大の収入源は観光だ。もともとパラオでは台湾、日本、韓国の「3強」が国別観光客のトップを占めてきた。しかし、2014年からその情勢に大きな変化が訪れた。13年まで1万人に満たなかった中国からの観光客は、14年に約4万人、15年には9万人弱と、あっという間に日本、韓国、台湾を抜き去って最大勢力となった。

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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