太平洋の親日国家・パラオの真実

レメンゲサウ大統領単独インタビュー:「日本とパラオは兄弟関係、私には日本人の血が流れている」

政治・外交

野嶋 剛 【Profile】

パラオのトミー・レメンゲサウ大統領に、日本との友好関係や自国の安全保障環境を巡る問題、台湾との国交関係、今後の観光施策などについて幅広く話を聞いた。

トミー・E・レメンゲサウ・Jr Tommy E. Remengesau, Jr.

パラオ共和国大統領。1956年生まれ。米国で犯罪学を学んだ後、28歳で上院議員に。2001年から2009年にかけて2期8年大統領を務めた後、12年に再選されて現在4期目。15年の天皇・皇后両陛下のパラオ訪問で接待役を務めた。毎年のように訪日しており、安倍晋三首相とも親しい関係で知られている。

台湾との外交関係は安定

野嶋 パラオと台湾は1999年に国交を結んでいます。しかし、中国から国交の樹立を求める外交圧力があることは周知の事実です。これは、パラオだけの問題ではなく、世界中の台湾と外交関係がある国に起きていることでありますが、この点について大統領はどう考えますか。

大統領 パラオと台湾の国交は、ナカムラ大統領の時代に結ばれて以来、堅固で安定しています。もしも可能であれば、台湾と中国の両方とも外交承認したいものです。なぜなら、台湾も中国も私たちの敵ではないからです。しかし、「一つの中国」という問題については、台湾にとっても中国にとっても厳格に運用されていることを理解しなければなりません。

ただ、台湾との外交関係は中国を敵とするものではなく、われわれは中国とも協力関係を維持しています。パラオは国連のメンバーですが、中国は安全保障理事会の常任理事国であり、世界の安定に安保理の役割は非常に重要です。私たちは中国とも貿易・経済関係を促進させ、長期的なパートナーになろうと考えています。

パラオの新首都マルキョクに台湾の援助で建設された豪華な新政府ビル。馬英九前総統の署名がある。(野嶋写す)

野嶋 台湾との外交関係を見直すつもりはないということですか?

大統領 そのつもりはありません。確かに、パラオにはそう期待する人もおり、そうした主張を行っている政治家もいます。しかし、すでに私が述べたように、台湾との外交関係は安定しています。

野嶋 中国との経済貿易協定についてはいかがでしょうか。昨年パラオの議会で締結を求める法案が提出され、5対5で辛うじて否決されました。一方で中国人観光客については、急増ぶりが話題になっています。

大統領 全ての外国の訪問者にホスピタリティーをもって接すること、これがわが国の基本的なスタンスです。わが国にとって、観光業は貴重で主要な収入源でもあります。同時に、われわれは、大切な大自然を守らないといけない。あまりに急激な観光客の増加は、大自然に影響を及ぼします。われわれの願いと目標は、観光客の数量をバランスよく伸ばすことです。パラオにとっては、多様な国々から観光客を迎えることが望ましい。そうすることで、仮にあるマーケット(国)が減少しても、全体の観光市場はクラッシュしません。

香港などを経由してパラオを訪れる中国からの旅行者については、パッケージツアーの過剰な増加がわれわれの予想を超えた形で進みました。一つの国の観光客でホテルの部屋の予約で埋まることは、パラオの観光業に対し、長い目でみてプラスになりません。原則は、バランスをとることです。そのため、香港経由のパラオへのフライトを半減させました。

中心都市コロールの海岸とホテル。美しい景観と透明な海を求め、外国からの訪問客が増えている=2014年12月

フライトの減少により、中国の観光客は減りました。その結果、日本や台湾、韓国、欧州からの観光客とのバランスが取り戻され、過去の状況に戻りつつあります。地元のメディアは観光客が減っていると報じますが、それこそが私たちの意図するところなのです。

我々は、(外国人訪問客の)人数は必ずしも収入や税収には直結しないことを学びました。クオリティ・ツーリズムと言いましょうか、パッケージよりも自由旅行者の強化により注力することが大切です。観光客数は昨年減りましたが、観光関係の税収はかえって増えています。これはよい兆候です。量より質が大事だということを人々は分かってくれるはずです。

(インタビューは2018年1月18日、コロールの大統領オフィスで行った)

バナー写真:インタビューを受けるパラオのトミー・レメンゲサウ大統領

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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