太平洋の親日国家・パラオの真実

レメンゲサウ大統領単独インタビュー:「日本とパラオは兄弟関係、私には日本人の血が流れている」

政治・外交

野嶋 剛 【Profile】

パラオのトミー・レメンゲサウ大統領に、日本との友好関係や自国の安全保障環境を巡る問題、台湾との国交関係、今後の観光施策などについて幅広く話を聞いた。

トミー・E・レメンゲサウ・Jr Tommy E. Remengesau, Jr.

パラオ共和国大統領。1956年生まれ。米国で犯罪学を学んだ後、28歳で上院議員に。2001年から2009年にかけて2期8年大統領を務めた後、12年に再選されて現在4期目。15年の天皇・皇后両陛下のパラオ訪問で接待役を務めた。毎年のように訪日しており、安倍晋三首相とも親しい関係で知られている。

海洋警備、安全保障で日米と協力

野嶋 海洋安全の問題に関する日本とパラオとの協力についてお尋ねします。このほど、日本財団から40メートル型の新造の最新型巡視船が無償供与され、運用開始にあたってセレモニーが2月13日に行われます。この巡視船がパラオの海洋警備に与えるインパクトはどのようなものでしょうか。

大統領 巡視船の供与はパラオ・日本の特別な関係を示すものです。日本の民間団体が、われわれの海事警察部門と密接に協力し、パラオ人の未来の豊かな生活の実現にかかわる海の安全や海洋環境の保護を支援しているのです。

新たに提供される巡視船は、パラオの広大な排他的経済水域(EEZ)を守る力を強化するでしょう。パラオの陸地は、EEZの広さの1%に過ぎません。われわれの海上警備能力は限定的であり、外からの支援が必要です。豊かなパラオの海は、常に密漁者や違法操業に悩まされています。今後は、今回、日本で製造され、最高水準のテクノロジーを有した新しい巡視船は、監視モニタリングや海洋警察の取り締まりに大きな効果を生むはずです。

野嶋 パラオの位置は、いわゆる「第二列島線」の南端に位置しているうえ、北朝鮮のミサイルの標的になっているグアムにも近い。パラオの地政学的な重要性がいま注目され、日米もパラオとの関係強化を重視しているようです。

大統領 今回の北朝鮮をめぐる危機は、太平洋諸国の中でもグアムや日本に近い国々の安全保障に明らかな影響を及ぼし、懸念される状況を生んでいます。われわれは、われわれのなすべきことを行います。軍事面では米国と深い関係があり、米国は戦略的な理由があればわれわれの領土の利用が可能です。すでにパラオは米国と協力して、海と空の監視システム(レーダーサイト)の導入に動き始めています。これはパラオ周辺の海洋における違法操業の問題に加えて、密輸や違法な物資の運搬を防ぎ、海の安全を守っていく戦略的な意味を持っています。

野嶋 昨年、米国のトランプ政権が米国とパラオの自由連合盟約(コンパクト)の延長のための改定に付随するパラオへの予算措置の法案を議会に送りました。コンパクトはパラオの軍事に関する権限を米国に預けるかわりに、予算補助をパラオが米国から受け取ります。共和党のトランプ政権は、太平洋地域の安全保障問題については民主党のオバマ政権時代よりも重視しているように見えます。

大統領 コンパクトの改定がパラオと米国との間で2010年に合意されたにもかかわらず、予算措置がなかなか前に進まず、パラオにとっても非常にフラストレーションがたまる事態でしたが、議会に予算案が提案されたことは喜ばしいことです。

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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