日本語が通じない?日本人

日本語と政治:政治家と有権者のコミュニケーション不全

政治・外交

言葉を使って政策を訴え支持を集める。政治家にとって「言葉」は最大の武器のはずだが、最近は有権者とのコミュニケーションギャップが目立つ。ニコニコしながら「排除します」と言ったばかりに支持を失ったり。一方で、差別とも受け取られかねない舌禍事件も相次いでいる。政治家と日本語の関係を探ってみた。

言語能力の足りない政治家

作家の高村薫氏は、政治家と有権者のコミュニケーション不全の原因を、言語能力が足りないからではないかと考えている。高村氏によれば、言語能力とは物事を考える力。語彙(ごい)が乏しいからといって、言語能力が低いわけではない。幼い子どもでも、物事を考え、伝える気持ちがあれば相手に思いを伝えられるのがその証拠だ。

政治家が持つべき言語能力とは何なのだろうか。

「まずは課題を理解したいという意思が必要です。さらに、どう国民の幸福に寄与するか理想や理念を考える。その意思さえあれば、言葉はあとからゆっくり付いてくるものです」

高村氏は「政治が向かう方向性の是非は別として」と前置きした上で、元首相の田中角栄(同1972〜74)に触れた。

「日本列島改造という彼なりの『日本のあるべき姿』を目指す意思があった。だから言葉に力があったのかもしれません」

第27回自民党臨時大会で新総裁選出後、就任記者会見する田中角栄新総裁=1972年7月5日、東京・永田町の自民党本部(時事)

一方で、2017年3月末、教育勅語を「憲法や教育基本法などに反しない形で教材として用いることは否定されることではない」と閣議決定したり、憲法改正の意思を見せたりする安倍氏の言動を追うと、一貫性のなさが目につくという。

「憲法を変えるという安倍さんの信念が見えない。説明したことがありますか? また、天皇制に心酔している様子は感じられませんが、教育勅語はよしとする。信念や理念がないまま、なんとなく憲法改正を言い出しているのではないでしょうか。意思がない言葉に力はありません」

高村氏の視線は希望の党の小池前代表にも向かう。

「ふわふわとした言葉ばかりが並び、中身がないと感じます」

言葉の力を復活させるためには

しかし、政治家だけが悪者ではない。

「有権者の多くは、安倍さんや小池さんの言葉で十分満足しているのでしょう。有権者が政治家を生んでいるのですから」

政治に対する不満は鬱積(うっせき)しているのかもしれない。結党当初、新聞各社の世論調査で、自民党や希望の党と比べて、支持率が極端に低かった立憲民主党が、ツイッターでのフォロワー数は結党3日足らずで13万人を超え、政党ツイッターではトップになった。「政治には、どうしたって言葉が必要です」と語る高村氏に、政治の世界に言葉の力を復活させるためにはどうしたらいいのか尋ねた。高村氏はしばらく沈黙したあと、言葉を絞り出すように語った。

「絶望的なことを言うようで気が進まないのですが、北朝鮮のミサイルがどこかに着弾するなど、有権者がよほど痛い目をみないと、人は言葉ときちんと向き合おうとしないのではないでしょうか。ひどい目を見て、やっと言葉がもう一度見直されることになると思います」

文・THE POWER NEWS編集部

バナー写真:安倍晋三首相に辞表提出後、謝罪する松本文明内閣府副大臣(中央)。松本氏は沖縄で起きた米軍ヘリ事故に絡み、国会で「それで何人死んだんだ」とヤジを飛ばして批判を受けた=2018年1月26日、首相官邸(時事)

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