日本語が通じない?日本人

日本語と政治:政治家と有権者のコミュニケーション不全

政治・外交

言葉を使って政策を訴え支持を集める。政治家にとって「言葉」は最大の武器のはずだが、最近は有権者とのコミュニケーションギャップが目立つ。ニコニコしながら「排除します」と言ったばかりに支持を失ったり。一方で、差別とも受け取られかねない舌禍事件も相次いでいる。政治家と日本語の関係を探ってみた。

課題が難しくメッセージを出せない

政治家の一方的な強弁や質問に正面から答えようとしない態度、議論不足……。政治をめぐるコミュニケーション不全は、何が原因なのだろうか。政治評論家の田原総一朗氏に尋ねると、こう答えが返ってきた。

「政治家とうまくコミュニケーションできなくなったのは、時代背景がある。いま抱えている課題が難しくなり、政治家がはっきりとメッセージを出せなくなってしまった。政治家の言うことがはっきりしないから、有権者もどう判断したらいいか分からなくなり、政治家の言うことをしっかり理解しようとしなくなったのではないか」

田原氏の解説ではこうなる。日本は第二次世界大戦後、東西冷戦の中で経済成長をひたすら求めてきた。戦後初の首相・吉田茂(在任期間1946〜47、48〜54)は「経済を一人前にしよう」と言い、安保闘争中は高圧的な発言に終始していた池田勇人(同1960〜64)は首相に就くと、「所得倍増論」を前面に打ち出した。経済力アップさえ主張していればよかった。

田原氏はかつて、世界で有数の装備を持っていた自衛隊のことを質問した時、首相だった竹下登(同1987〜89)が「戦えない軍隊だからいいんだ」と発言したのを覚えている。世間からバッシングは起きなかった。「いまだったら、何を言われているか分からない。でも当時は経済力が外交力だった」

複雑な課題に政治家とメディアは

しかし、89年にベルリンの壁が崩壊して冷戦が終わり、91年には絶好調だった日本経済のバブルは弾け、一気に不況へなだれ込んでいった。

日本は明確な目標を失い、国際社会も複雑さを増していった。ここで信念を語り、この国の行く末を示すのが政治家だが——。田原氏はため息まじりにこう話す。

「問題が難しくなりすぎちゃって、政治家は考えることをやめてしまった」

田原氏が例に挙げたのが、沖縄に点在する米軍基地の問題だ。誰もが沖縄に集中しているのはおかしいと思うが、ではどこに移設するのか。米軍ではなく日本が自前で基地を造れば、軍事費は莫大になるが、国民の支持は得られるのか。答えを導き出すのは、そう簡単ではない。

「複雑な課題を前に、政治家が口を閉ざし始めた。それを解説・批評すべきマスメディアも、責任ある言論を書けなくなっているのが現状ではないか」

さらに、コミュニケーション不全になっているのは「政治家—有権者間」だけではなく、政治家同士にまで広がっているのだという。

「テロ等準備罪」を新設した改正組織犯罪処罰法は今年6月に成立した。犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を含むとあって、反対する議員も多かったが、特に話題になったのは、金田勝年法相の意味不明な答弁だった。田原氏によると、金田法相は法案の提出を直前まで知らされておらず、法案提出のスケジュールを知って「聞いてない」と絶句したという。

田原氏は、森友学園の国有地売却問題で安倍氏が「私や妻がこの件に関係したら、首相も国会議員も辞める」と発言したことに触れながら、「安倍さんは、言うべきことを言わず、言わなくていいことを言う人だ」と話した。

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