日本のヤクザは今

福岡金塊事件の闇:海外マフィアが暴利むさぼる密輸ビジネス

社会

日本が金塊密輸ビジネスの温床になっている。福岡・博多で7億5800万円相当の金塊が盗まれた事件で2017年5月に逮捕されたのは、いわゆる「半グレ」と呼ばれる不良グループを中心とした10人だった。事前に金塊の取引情報を入手した彼らは、警官の職務質問を装って被害男性らを足止めし、白昼堂々と強奪を成功させた。極秘であるはずの取引情報はいったいどこからもたらされたのか。頻発する金塊事件を追うと、日本への金塊密輸を繰り返す海外マフィアの存在が浮かび上がってきた。

“尻尾を切られた”半グレ集団

主犯格の2人は、地元・名古屋で「野口兄弟」として知られる有名なワルだった。暴力団との付き合いはあるが、所属しているわけではなく、いわゆる「半グレ」(暴力団に所属せず犯罪を繰り返す集団)と呼ばれるグループのリーダー格である。これまでも組織的な自動車盗など窃盗事件を繰り返し、警察からマークされる存在だった。

名古屋を代表する夜の街・錦三(きんさん)でも目立つ存在で、芸能人を連れ歩き、次々と高級車を買い替える羽振りの良さで知られていた。「彼らは繁華街のクラブで連日連夜どんちゃん騒ぎをする“パリピ”(パーティーピープル)。どこで稼いでいるのか分からないけれど、金使いが派手でとにかく有名でした。事件で逮捕されて、あ、やっぱりと思いましたよ」と錦三の飲食店勤務の女性は言う。SNSでは、仲間たちが集まる派手なパーティー、大量のブランド品、高級車の写真を投稿していた。和樹被告は事件後たびたび海外で豪遊し、逮捕当日もハワイ旅行から戻ったところを成田空港で身柄を押さえられた。

彼らの交友関係は広く、周辺には東海地方の暴力団関係者や関東の半グレ集団の影もちらつくが、即席の犯行グループとして今回集まったのは“遊び仲間”たちだった。彼らは文字どおり、単なる「実行犯」に過ぎなかったと言える。そこにあるのは、「出来レースで金塊を強奪する」といううまい話に乗り、まんまと大金をせしめたまではいいが、トカゲの尻尾切りのようにあっさりお縄となった、というお粗末な話だ。

密輸ビジネスと海外マフィア

となると、裏で絵を描いた“黒幕”はいったい誰なのか。

「アジアの海外マフィアが一枚かんでいたのは間違いない」と指摘するのは、先の捜査関係者だ。「彼らは組織的に金塊を日本に密輸し、暴利をむさぼっている。根本にあるのは、金塊の密輸ビジネスを巡る主導権争いでしょう。金塊取引はあらゆるグループが乱立しているので、つぶし合いもある。当局としては、取引情報は、取引の相手先をハメるため、アジア系のマフィアが流したのではないかとみています」。

金塊ビジネスの仕組みは単純だ。ポイントは、日本の「消費税8%」にある。海外の多くの国では金の取引に消費税がかからないが、日本では売買時に消費税がかかる。海外から持ち込む場合は、入国の際に関税で消費税8%を納め、国内では消費税込みの価格で売買する。つまり、この税制度の違いを利用して、海外で調達した金塊を日本に密輸して消費税込みの価格で売れば、それだけで「8%」分の利ザヤを稼ぐことができるのだ。

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