ムスリムの現実 in JAPAN〜「IS」が生んだ誤解の中で

(5)ムスリムと結婚して改宗した日本人女性たち

社会

イスラム教は女性の人権を制限している、との主張がある。日本でも、特に過激派組織イスラム国(IS)の台頭以降、女性への暴力や迫害など印象を悪くするニュースばかりが目に付く。そんな日本でムスリムの男性を愛し、結婚・改宗した日本人女性たちがいる。彼女たちはどのような暮らしをしているのか。3人にそれぞれの事情と思いを聞いた。

2児の母、子どもたちの未来を思う(東京)

再び東京――。練馬区の西武池袋線江古田駅近くにあるイタリアンレストラン「プランポーネ」。経営するのは、人懐っこい笑顔でしゃべりだしたら止まらないバングラデシュ人のムジャヘッド・ジャハンギールさん(54)と妻・千尋さん(32)。別のイタリア料理店で店長をしていたジャハンギールさんと、大学生のアルバイトだった千尋さんは22歳差の熱愛の末、7年前に結婚した。

ムジャヘッド千尋さん(上)と、人懐っこい笑顔が印象的な夫のジャハンギールさん

改宗して不自由はまったくない

「イスラムの教えは、例えば『親を大切に』とか『うそはつかない』とか、実は日本の子どもが親からしつけられることと似ているのです。改宗することに特に違和感は感じませんでしたし、改宗して不自由になったとはまったく思いません」と千尋さん。

一方でジャハンギールさんの生活は、ムスリムとしてはちょっと「荒れて」しまっていた。来日したのは32年前。日本には今以上にイスラム教への理解がなかったという。日本社会に溶け込むため、食べ物や生活習慣などで、イスラム教では禁止されていることも受け入れざるを得なかった。結果、その生活が日常になってしまっていた。元に戻せたのは結婚を決めたころ、千尋さんに諭されたからだ。

「すべて彼女のおかげです。あれはだめこれもだめって言っていたら日本の人と仲良くなれないから、僕も一生懸命やってきました。でも、彼女と出会って、教えに基づいた生活に戻るように、神様が導いてくれたのです」と当時を懐かしむ。

千尋さんは0歳と3歳の娘の育児に追われながら、店を切り盛りする日々だ。礼拝を全部はできない日もあるし、金曜礼拝にはそうそう行けない。

「ムスリムですから、ちゃんとできたほうが心は穏やかです。でも神様は寛大で、人間が気にしているようなことは気にしていないと夫に教えてもらいました。教えに基づいて努力をする、それが一番大事だと考えています」

22歳差の夫婦だが、千尋さんはおしゃべりな夫を「子どもみたい」と笑う

子どもは日本で少数派だが、私たちはぶれずに

「怖い」と誤解されてしまうかもしれないと、客には自分たちがムスリムであること、店がハラール料理を提供していることを積極的には明かしていない。ムスリムとして生まれた子どもたちの将来に、不安がないわけではない。

もどかしさは少し感じつつも、2人はあくまで自然体だ。ジャハンギールさんは語る。「僕たちはムスリムだとアピールする必要はありません。僕たちが素敵な顔をして生きていれば、自然と人が訪ねてきてくれる。そのくらいの人間になりなさい、というのがイスラムの教えなのです」

2012年に開店したプランポーネ。ハラール食材での料理を提供している

隣で千尋さんもうなずいた。「私たちの子どもは、日本では少数派になります。学校の給食でも食べられないものがあるとか、いろんなことがこの先あるかもしれません。ただ、主張するのではなく、私たち夫婦がぶれずに教えに基づいた生き方をして、周りの人たちと楽しく暮らしていけば、自然と子どもたちもうまくやっていくと信じています。家庭ごとにいろんなルールの違いはありますよね。その中の一つという感じで、周りのお友達にも自然に理解してもらえたらうれしいと思っています」

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