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「空白恐怖症」「ばえる(映える)」が大賞:国語辞典の編者らが選んだ2018年の新語

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国語辞典を出版する小学館と三省堂が、専門家や編集部が選んだ2018年の新語をそれぞれ発表した。

予定の空白を恐れる現代人

小学館は12月3日、2018年の新語大賞に「空白恐怖症」を選定。手帳に架空の予定を入れるほど、スケジュールの空白を恐れることを意味する言葉だという。選考委員の田中牧郎・明治大学教授は、この語が「予定がない=充実していない=人生これではいけないという強い自己否定の心情」を表し、インターネットの交流サイト(SNS)で友人の多さをアピールする心理と共通する、と分析した。

次点は、結婚という形式は維持しながらも夫婦が互いに干渉しない生き方を示す「卒婚」、論点をすり替えた答弁のやり方を指す「ご飯論法」だった。

小学館「大辞泉が選ぶ新語大賞2018」

大賞 空白恐怖症
次点 卒婚
ご飯論法
最終選考に残った新語8選 億り人
フェアプレーポイント
まるっと
スーパーボランティア
じたハラ
いみふ
介護脱毛
多浪生

(※それぞれの言葉の解釈は2ページ目に掲載)

「インスタ映え」から動詞が独立

三省堂は5日、「今年の新語」大賞に「ばえる(映える)」を選んだ。元になったのは、SNSのインスタグラムで写真や被写体が美しく見えることを指す「インスタ映え(ばえ)」。2017年に小学館の新語大賞や自由国民社の新語・流行語大賞に選出されたが、三省堂の新語ランキングには入らなかった。「インスタグラム」と「映え(はえ)」の項目が辞典にあれば説明できるというのがその理由だった。

しかし18年はインスタ映えから「ばえ」が独立する形で動詞として浸透し始め、SNSに投稿しない場合でも見栄えがいいものについて用いられるようになったとして、「ばえる」を大賞とした。「映える」の従来の読み方「はえる」だと、周囲の物に対して引き立って良く見えることを表すが、「ばえる」は対照物なしでも使われる特徴があるという。

2位は「もやもやする」の短縮形「モヤる」、3位は「分かる」に接尾辞「み」を付けて理解や共感を示す「わかりみ(分かりみ)」だった。

三省堂の発表会には、脚本家の北川悦吏子さん(右から2人目)がゲスト参加。NHKの連続テレビ小説「半分、青い」の執筆中に3位の「わかりみ」をネットで見て初めて知り、ドラマに出演した俳優の佐藤健(たける)さんから、通信アプリのLINE(ライン)でこの言葉で返信を受けて「本当に使われている」とうれしくなった、と話した=12月5日、東京都渋谷区の「東京カルチャーカルチャー」(写真提供:三省堂)

三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2018」

大賞 ばえる(映える)
2位 モヤる
3位 わかりみ(分かりみ)
4位 尊い
5位 VTuber
6位 肉肉しい
7位 マイクロプラスチック
8位 寄せる
9位 スーパー台風
10位 ブラックアウト
選外 半端ないって
そだねー

(※それぞれの言葉の解釈と選評は3ページ目に掲載)

“ヤバい辞書”や『広辞苑』の新語も話題に

国語辞典の専門家らが選ぶ毎年の新語は、辞書に掲載され得る言葉であることが特徴だが、2018年は書店で販売される国語辞典の最新版で実際に多くの新語が採用されたことも注目を集めた。

『三省堂現代新国語辞典』第6版

三省堂は10月、高校生向けの『三省堂現代新国語辞典』第6版を発売。同社「今年の新語」の選考を担当する小野正弘・明治大学教授と日本語学者の飯間浩明氏が編者で、全7万7500項目のうち、約1千の新しい言葉や語義を収録した。2017年の新語6位だった「笑う」という意味の「草」のほか、趣味などにのめりこむことを表す「沼」、スマホのデータ通信量としての「ギガ」など、ネットスラング(俗語)を多く採用したことで、発売直後から“ヤバい辞書”としてSNSやテレビ番組で話題になった。しかし、編者らは「奇をてらったわけではなく、今やネットで皆が普通に使っている」として、これらの言葉を盛り込んだという。

岩波書店が10年ぶりに改定した第7版を1月に発売した『広辞苑』(全25万項目)は、1万の新語を収録。「クラウド」「仮想通貨」などのIT(情報通信)・ネット用語を多く採用したが、「ググる」(グーグルで検索する)は掲載しなかった。また、日常会話でよく用いられるようになった言葉のうち、「がっつり」や「ごち」は採用したものの、「きしょい」(気持ち悪い)や「ほぼほぼ」(「ほぼ」の強調、2016年の三省堂新語大賞)は収録を見送った。「先頭を切って新語を載せるのが『広辞苑』の役割ではなく、日本語として定着したことを見極めてから掲載する」というスタンスだ。

『広辞苑』第7版

国語辞典のベストセラー『広辞苑』が掲載する新語への世間の関心は高く、今回新たに収録した「LGBT」を「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」とする記述に対し、身体と自己認識の性が一致しないトランスジェンダー(T)と性的指向は直接関係しないとの指摘をネット上などで受けて、後に訂正した解説文をウェブサイトに掲載したこともニュースになった。

(※『三省堂現代新国語辞典』『広辞苑』に採用された新しい言葉や語義の例は4ページ目に掲載)

バナー写真:三省堂「今年の新語2018」の大賞に選ばれた「ばえる(映える)」

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