新語・流行語・今年の漢字

国語辞典の編者・編集部が選んだ2017年の新語

社会 Books

国語辞典を出版する小学館と三省堂が、辞典を編さんする学者や編集部の選定による2017年の新語をそれぞれ発表した。世相と共に生まれ、変化する言葉が選ばれた。

『大辞泉』を発行する小学館は11月30日、読者からの投稿を基に専門家と編集部が同辞典のネット版に掲載する言葉を選ぶ「新語大賞」を、1回目の昨年に続いて発表。「インスタ映え」を大賞に選定した。選考委員の田中牧郎明治大学教授は選評の中で、「華やかに引き立つことを意味する伝統的な言葉」である「映え」に、「動画」「テレビ」など被写体を写す媒体と結びつく用法が近年登場していることを紹介し、「よく映るだけではなく、そこで引き立つことでコミュニケーションを活性化させることが期待されている」と分析した。

大賞候補だった7語は「希望の党」「パラダイス文書」などで、16年と同様に時事用語が多かった。読者の投稿数1位は「インスタ映え」、2位が「忖度(そんたく)」。翌12月1日に発表された「ユーキャン新語・流行語大賞」(自由国民社『現代用語の基礎知識』選)の年間大賞2語を先取りする形になった。

忖度は「有力者への配慮」か、専門家が激論

12月3日には『新明解国語辞典』などで知られる三省堂が、3回目となる「今年の新語」のランキングを発表した。同社の国語辞典の編さんに携わる学者らが、その年に広まり、翌年以降も定着して辞書に掲載され得る新たな言葉や意味・用法を選定する。17年の大賞には、読者の応募があった1072語の中から「忖度」を選んだ。

元は中国の古典にも現れる文章語だが、「森友学園」への国有地払い下げと「加計学園」の獣医学部新設を巡る国会審議や報道をきっかけに、今年日常会話で頻繁に用いられた。選考委員らは、「人の心情を推し量る」という意味に「有力者の気持ちを推測し、気に入られるようにする」「推測した結果、具体的な行動に移す」といった新しい用法が生まれていると指摘。さらに「忖度が働く」のように主語で使われ始め、文法的な変化が見られるとして、大賞に選定した。

「新語・流行語大賞」と同じ言葉となったことに、選考委員の飯間浩明氏(『三省堂国語辞典』編集委員)は「独自性を出したかったが、今年に限っては事故のようなもの」と説明。一方で言葉の新たな意味について委員3人が激論を交わしたことを明らかにした。委員らは「忖度」を大賞とすることでは一致したが、有力者への配慮という用法を加えるかどうかで各委員の語釈(3ページ目に掲載)に違いが出た。

大賞以外では、「インフルエンサー」「パワーワード」など会員制交流サイト(SNS)に関連する言葉が目立つ。ただし「インスタ映え」は、「インスタ」に「映え」という接尾語が付いただけで、辞書で独立した項目になりにくいため候補に入れなかったという。

ベストテン候補だったが「選外」としたのは、「卍(まんじ)」など3語。10代の若者の間で流行する「卍」は「マジ卍」などの形で用いられるが、用例がさまざまで選考委員が定義できなかった。委員の小野正弘明治大学教授は「使う人たちも意味を分かっていないのではないか」。飯間氏は「マジ」の強調で使われ始めたとの仮説を立てた。

12月3日に都内で行われた三省堂「今年の新語2017」の発表会には、選考委員と共にタレントの水道橋博士さん(左から2人目)がゲスト参加。師匠であるビートたけしさんの意向を長年にわたり「忖度」してきたが、「(たけしさんは)この言葉を『今年初めて知った』と言っていた。忖度されてきた人は知らなかったのかもしれない」と話して観客を笑わせた(写真提供=三省堂)

小学館「大辞泉が選ぶ新語大賞2017」

大賞 インスタ映え
最終選考に残った新語7選 文春砲
都民ファーストの会
横入り
シンデレラフィット
希望の党
ガチ勢(ぜい)
パラダイス文書

※それぞれの言葉の解釈は2ページ目に掲載

三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2017」

大賞 忖度
2位 インフルエンサー
3位 パワーワード
4位 〇〇ロス
5位 フェイクニュース
6位
7位 仮想通貨
8位 オフショル
9位 イキる
10位 きゅんきゅん
選外
プレミアムフライデー
熱盛

※それぞれの言葉の解釈と選評は3ページ目に掲載

バナー写真提供=三省堂

小学館「大辞泉が選ぶ新語大賞2017」語釈

インスタ映え

(『大辞泉』に掲載される語釈)

《「インスタ」は「インスタグラム」の略》インスタグラムに投稿した写真や動画が、際だって鮮やかに見えること。また、それに向いている被写体・素材であること。「インスタ映えのするスイーツ」

(以下は読者が投稿した語釈)

文春砲

週刊誌「週刊文春」に頻繁に掲載されたスクープを、連射する大砲にたとえた語。2016年ごろ、同誌のスクープが社会に大きな影響を与えたことから生まれた言葉。

都民ファーストの会

小池百合子東京都知事を支持する議員が結集した政党。

横入り

割り込みのこと。

シンデレラフィット

衣類や靴などのサイズがちょうどいいこと。収納器具に中身がぴったり収まること。

希望の党

小池百合子東京都知事が設立した国政政党。

ガチ勢

娯楽や趣味に取り組む際に生半可な気持ちではなく、極めて真剣に取り組む人々のこと。

パラダイス文書

2017年にバミューダ諸島の法律事務所などから流出した文書。前年のパナマ文書と同様に、世界中の富裕層の金融取引が明らかになった。

三省堂「今年の新語2017」語釈と選評

1位 忖度

そん たく【《忖度》】(他サ)

〔「忖」も「度」も推し量る意〕何等かの意味で苦境に立たされている人について、その心情などを、第三者があれこれと推測すること。また、その推測。

(倉持保男氏による『新明解国語辞典』風の語釈)

そん たく[忖度](名・他サ)

①〔文〕〔相手の気持ちを〕推測すること。「母の心中を―する」

②有力者の気持ちを推測し、気に入られるようにすること。「会長の意向を―した報告書・―が働く」〔二十世紀末から広まった用法〕

(飯間浩明氏による『三省堂国語辞典』風の語釈)

そん たく〖忖度〗〈名・他動サ変〉

①ひとの気持ちをおしはかること。「かれの心中を―すると気の毒でならない」 (類)察する

②相手が希望していると思われることを、言われる前に行なうこと。「有力な縁故者への―が働いて、すんなり申請が通る」[②は、①をして何をするかというところまでが意味に含まれたもの。類例に「通夜(つや)(=徹夜すること→徹夜して亡き人を弔うこと)」

(小野正弘氏による『三省堂現代新国語辞典』風の語釈)

【選評から】

今年の3月からしきりに使われた。大阪市の学校法人に国有地が払い下げられた際、官僚の間にある種の配慮が働いたのではないかという国会での議論が発端。その「ある種の配慮」が「忖度」と表現された。「忖度」は中国古典の「詩経」にもある言葉で、「相手の気持ちを推測すること」。「有力者に気に入られるための推測」という意味の「忖度」の例が、近年目立つようになった。従来、「母の心中を忖度する」のように「○○を忖度する」の形で使うことが一般的だった。ところが、有力者へのこび、へつらいの気持ちを伴う意味が生じた結果、「忖度が働く」「忖度がはびこる」など、「忖度」を主語にしたフレーズ(句)の形で使われることが多くなった。一般になじみのなかった「忖度」という文章語は、今年日常語として認知され、使用頻度が突然に高まり、重要度が増した。意味的、文法的にも変化した。「忖度」の存在感は圧倒的なものがあった。大賞を与えるにふさわしい言葉。

2位 インフルエンサー

インフルエンサー 〈名〉[influencer]

経済・流行・価値観などに関して、多くのひとびとに強い影響を持つ人物。特に、インターネットなどのメディアを通して購買活動に大きな影響を与える人を言う。「―マーケティング」

(小野正弘氏による『三省堂現代新国語辞典』風の語釈)

【選評から】

情報発信の主体が、マスメディアだけでなく個人に広がっていることを象徴する言葉。「グーグルトレンド」の検索数データを見ると、この数年、英語でも「influencer」の使用頻度が高くなっている。日本語の「インフルエンサー」は、特に今年急速に一般化した観がある。主な要因として、アイドルグループ・乃木坂46の「インフルエンサー」という歌がヒットしたことが挙げられる。この歌の内容は、「好きな相手が自分に影響を与えている」というもので、必ずしもSNSとは関係がないが、この標題がネットのインフルエンサーを踏まえていることは明らか。

3位 パワーワード

パワー ワード〔power word〕(名)

①説得力のあることば。表現が異様で、強烈(キョウレツ)な印象のあることば。パワワ〔俗〕。〔二〇一〇年代に広まった用法〕

(飯間浩明氏による『三省堂国語辞典』風の語釈)

【選評から】

「ツイッターを中心に確実に今年広まった気がする」といった投稿者の声が多く寄せられた。「今年の新語2015」の時から投稿があったが、前回・今回と投稿数が大幅に増えた。文字通り「力強い言葉」だが、SNSでは特に表現が異様で強烈な印象のある言葉を指す。自分の発言をSNSで広めるためには、まずは目を留めてもらうことが必要。人目を引く表現を考えることに誰もが熱中し始めた結果、「パワーワード」という用語が広まった。「パワワ」という略称も生まれており、言葉の定着の度合いをうかがわせる。

4位 〇〇ロス

ロス〈接尾〉[loss]

あるものがなくなったことで、喪失感のあまり無気力になってしまうこと。「ペット―」[二〇一三年に放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」が終了したことによる喪失感を「あまロス」と言ったことなどから広まり、「○○ロス」という造語がさまざまに行なわれるようになった]

(小野正弘氏による『三省堂現代新国語辞典』風の語釈)

【選評から】

『三省堂国語辞典』『三省堂現代新国語辞典』などには、すでに「失うこと」の意味が載っており、「ペットロス」の例が出ている。近年、この「ロス」が造語力(新しいことばを生産する力)を獲得し始めた。14年にフジテレビ系「笑っていいとも!」が終了した時は「タモロス」(タモリさんの名から)、15年に福山雅治さんが結婚した時は「ましゃロス」(福山さんの愛称から)という言葉が生まれた。今年は、安室奈美恵さんの引退表明により「アムロス」の人々が発生。「○○ロス」は今ではいろいろな人やものの名前と結びついて意味を添えるようになった。こういう性質を持つ言葉を「造語成分」と言い、これまで表現の難しかった喪失感が、「ロス」という造語成分で表現できるようになった点を評価した。

5位 フェイクニュース

フェイク ニュース 〔fake news〕

〔フェイクは偽物の意〕何らかの意図があって、故意に流された虚偽の情報。〔大統領選挙や重要な外交交渉に連動して流されることが多い。また、自分に不利な報道を戦略的に虚偽だと主張する際にも用いられることがある〕「―を巧みに利用して選挙戦を有利に進める」

(倉持保男氏による『新明解国語辞典』風の語釈)

【選評から】

SNSの発達とともに、ネット上でデマが容易に拡散するようになった現在、誰もがフェイクニュースを警戒しなければならなくなった。今後のネット社会で無視できない危険因子を表す言葉として、ランキングの上位に入れた。

6位 草

くさ[草](名)〔俗〕

笑うこと。笑えること。「一問も わからなくて―・―生える〔=笑ってしまう〕」〔二〇一〇年代に広まった用法。笑いを表す記号「w」を「www」のように重ねた様子が草原に見えることから〕

(飯間浩明氏による『三省堂国語辞典』風の語釈)

【選評から】

「ウィキペディア」では09年3月、「草」の項目に〈インターネットスラングのひとつ〉という説明が加えられたが、一般化するまでには時間がかかった。当初は「気持ち悪いよね」「うざい」という評価も目についた。最近まで認知度は必ずしも高くなく、2、3年前まで「『草』って何ですか」という質問をネット上でよく見かけた。今では若い人は普通に「人多すぎて草」などと使っている。かつて「笑い」という言葉はネット掲示板で「ワラ」「藁」などと表記され、さらに「w」とアルファベット1字まで簡略化された。それで終わるかと思ったら、「wwww」から「草」という表現が生まれ、「草生える」という成句(?)も一般化した。この言葉の激動の歴史をたたえたい。

7位 仮想通貨

かそう つうか 【仮想通貨】

インターネットなどを通して送金や決済ができ、現実の通貨とも交換のできる通貨。ネットワーク上のコンピューターが相互に取引をチェックすることで信頼性を保証する仕組みを持つ。

(倉持保男氏による『新明解国語辞典』風の語釈)

【選評から】

「ビットコイン」などがその代表。怪しいお金かと思っていたら、昨年の法改正で商品券などと同様のものと見なされ、今年7月から消費税がかからなくなった。将来主流になるかもしれないマネーの呼び名として、ランキングに入れておく。

8位 オフショル

オフ ショル〔←off-the-shoulder〕(名)〘服〙

えりぐりが広くて、肩(カタ)まで出るようになっている、女性の服。オフ ショルダー。〔イブニングドレスなどで よくある。二〇一六年ごろから ふだん着としても流行〕

(飯間浩明氏による『三省堂国語辞典』風の語釈)

【選評から】

「オフショルダー」自体は、昔から夜会服などに見られたが、日常の服装ではなかった。最近になって、女性の普段着に取り入れられ、名称も「オフショル」と略されるようになった。略称の存在はその言葉の定着度を判断する材料になる。「オフショル」は一時の流行に終わらないと見て、ランクインさせた。

9位 イキる

いき・る〖意気る〗〈自動五段〉

調子に乗ってやたらに大きな態度を取る。「あいつ、イキりまくりで見てられないよ・そうイキんなや」[もと関西辺の言い方。「イキ」の部分だけカタカナ表記されることが普通。「イキり」のように名詞形で用いられることも多い]

(小野正弘氏による『三省堂現代新国語辞典』風の語釈)

【選評から】

今年になって、「イキりオタク」(かっこつけてるオタク)のように、「イキる」が全国区の言葉として広まった。関西方言の「えげつない」「ど真ん中」など、方言が全国で使われるようになる例は、過去にも無数にあり、「イキる」もその一つとなった。

10位 きゅんきゅん

きゅん きゅん(副)―と/―する

接するたびに息苦しさや言い知れぬ悩ましさを感じ、異常な興奮状態に陥る様子。「あの連続ドラマの主題歌が流れるたびに胸が―して、我を失うような状態に陥る」

(倉持保男氏による『新明解国語辞典』風の語釈)

【選評から】

胸をときめかせる様子を表す擬態語(オノマトペ)。新語という感じは薄いかもしれないが、現在のところ、オノマトペ辞典を含め、主要辞書では「きゅんきゅん」は項目に立っていない。もともと「きゅん」は「胸がきゅんと痛む」のように、寂しさ、懐かしさなどで胸が締めつけられる感じを言う。やがてイエロー・マジック・オーケストラの曲「君に胸キュン」(1983年)に見られるように、恋愛感情による動悸(どうき)などを表現するように。現在、「きゅん」「きゅんきゅん」は、好きな人やかわいい動物などに対するときめきを表す場合に使われる。そろそろ、国語辞典にも説明がほしいところ。

選外

卍(まんじ)

【選評から】

中高生の若者、特に女子がさかんに使っているようだ。この状況はツイッターを見れば一目瞭然。〈これからバイトとかマジ卍〉〈嬉しすぎて卍〉〈行きたすぎる卍〉……などと「卍」が乱舞している。「『卍』の意味が分からない」という声も多く、正直なところ選考委員もぴんと来ない。「卍な彼氏」は「ヤンキーな彼氏」であるなど、いろいろに使われるようだ。ただ、「マジ卍」という連続が多いことから、「マンジ」はもともと「マジ」の強調形で、そこからいろいろな意味が分化したとも考えられる。

だとすると、〈これからバイトとかマジ卍〉は「これからバイトに行くのは、本当に、本当に(嫌だ)」ということと解釈できる。〈行きたすぎる卍〉は、「マジで行きたい」ということだろう。後者の「卍」は、あるいは、発音せずに、特に意味のない記号として使っているのかもしれない。なかなか興味深い表現であり、使用実態をもっと研究してみたい気はする。ただ、意味・用法が固まりきっていない現状では、辞書には載せられないため、選外になった。

プレミアムフライデー

【選評から】

「プレミアムフライデー」(プレ金)は、月末の金曜日に早めに仕事を終えようというキャンペーンで、国や経済界が呼びかけ、今年2月から実施された。スマイルマーク風のロゴもできたが、プレ金を実施する会社は多くないようで、「実質を伴わない言葉」になる恐れが濃くなった。これから先、月末金曜の夜に残業中の人たちが、「そう言えば、今日はプレミアムフライデーだね」と自嘲的に使い続ける可能性もある。冗談で長く使われる言葉になるかもしれない。

熱盛

【選評から】

テレビ朝日系「報道ステーション」で、プロ野球の「熱く盛り上がっているシーン」を紹介する時に使う。ミスにより、「熱盛」の字幕が関係ないところで表示されたことから話題に。現在のところ、まだ流行語という色合いが強く、ランクインさせるのはためらわれる。余談ながら、うどんやそばの「熱盛り」は国語辞典に載っている。熱い麺を器に盛って出すもの。この意味を①とし、「熱く盛り上がっていること」を②の意味として、辞書に載せる日が来るかもしれない。

バナー写真:辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2017」選考発表会(三省堂)で、大賞「忖度」について解説する選考委員=12月3日、東京都千代田区(提供=三省堂)

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