2016年の新語・流行語大賞は「神ってる」

2016年の「ユーキャン新語・流行語大賞」が12月1日に発表され、25年ぶりにプロ野球セ・リーグを制した広島カープの好調ぶりを象徴する「神ってる」が年間大賞に選ばれた。

トップテンには、芸能人や政治家のスキャンダルにまつわる「ゲス不倫」、働きながら育児をする親が抱える問題を浮き彫りにした「保育園落ちた日本死ね」、動画が世界を席巻した「PPAP」などが入った。

9月10日の対巨人戦で、2打席連続本塁打となる2点本塁打を放つ広島の鈴木誠也＝東京ドーム（時事）

年間大賞とトップテンは、文化人らによる選考委員会が候補30語の中から選出した。11月18日に候補語を発表した大賞事務局が「豊作とも言える年」とコメントしていたのに対し、選考委員を務めるクリエーティブ・ディレクターの箭内道彦さんは選評の中で「そうとは言えない」と指摘。「複雑な時代になったのか、声が聞こえてくる『言葉』が少ない。耳からでなく、目から入ってくる現象や商品の名が多かった。発信者だけでなく、さらに多くの人々が確実に口にするというのはなかなか難しい」と続けた。

女優でエッセイストの室井滋さんは、今年は「数多くの言葉が生まれた。しかし、改めて並べてみると、全体的に陽気というよりは、言葉の奥に複雑な問題が絡んでいる印象だ」と述べた。

一方、歌人の俵万智さんは、候補語に「君の名は。」と「聖地巡礼」、「都民ファースト」と「盛り土」など、1つの現象から生じる複数の言葉や関連し合う言葉が多かったことに言及。「それだけ、世の中の関心が、一事に熱狂的に集まりやすくなっているのかもしれない」として、インターネットが口コミに比べて物事を「計り知れないほど」の速さで伝播（でんぱ）させていることが背景にあると分析した。

また姜尚中・東京大学名誉教授は、都内で開かれた年間大賞とトップテンの表彰式で「不確実な時代の中、ネット社会の増幅装置が言葉をとがったものにしている」と語った。

年間大賞、トップテン各語

神ってる【年間大賞】

プロ野球セ・リーグの広島カープが25年ぶりのリーグ優勝を果たした。緒方孝市監督が6月18日、鈴木誠也選手の神懸かり的な活躍（2試合連続サヨナラ弾）にこの言葉を用いて以来、球団全体の好調ぶりを指すようになった。監督は長男や次女の口癖を参考にしたという。

表彰式には鈴木選手が出席。「この言葉のおかげで、数多くのファンに自分の名前を覚えてもらえたことがうれしい」と話した。

ゲス不倫

16年は、さまざまな有名人の不倫が週刊誌に暴露された。特に注目を集めたのは、「週刊文春」が 1月 に報じた、タレントのベッキーさんとロックバンド「ゲスの極み乙女。」のボーカルで妻帯者だった川谷絵音（えのん）さんとの交際。バンド名をもじって「ゲス不倫」と名付けられ、他の不倫騒動も総称する言葉になった。

「ゲス不倫」で表彰を受けた週刊文春編集部の記者は、同誌のキャラクター「文春（ふみはる）くん」のマスクを着用して登場。取材対象の有名人への「張り込みに影響が出るので」と、顔を隠す理由を明かした。

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聖地巡礼

アニメやドラマ、ゲームの舞台になった場所や地域が「聖地」となり、多くの人々が「巡礼」に訪れる現象。近年、アニメファンを中心に広まりを見せ、16年は『君の名は。』に描かれた岐阜県飛騨地方を「巡礼」する人が急増した。ゲーム「刀剣乱舞」で擬人化された日本刀に興味を持ったファンが、本物の刀を見学するために美術館や博物館に足を運ぶような例もある。

江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅近くの踏切は、バスケットボール漫画「スラムダンク」に描かれたことで人気となり、国内外から観光客が集まる＝2015年8月28日撮影、神奈川県鎌倉市（読売新聞／アフロ）

トランプ現象

ドナルド・トランプ次期米大統領は、選挙中の過激な言動で白人労働者層を中心に支持を得た。日本国内では、同氏の安全保障や貿易を巡る発言を受けて、今後の米国との関係に不安も生じている。

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PPAP

お笑い芸人の古坂大魔王さんが扮（ふん）するシンガーソングライター、ピコ太郎の楽曲「ペンパイナッポーアッポーペン（PPAP）」が世界を席巻。「YouTube」にはPPAPを歌う動画が多く投稿され、同サイトの「ミュージック全世界トップ100」で日本人の曲として初の1位を獲得した。10月19日付の米ビルボード週間総合チャートでは77位で、日本人で26年ぶりのトップ100入りとなった。

保育園落ちた日本死ね

2月15日、匿名ブログに「保育園落ちた日本死ね！！！」と題した文章が書き込まれた。育児中の母親と見られる人物が「（議員が）不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ」などと訴えた。保育園の待機児童が問題になる中、衆院予算委員会の質問でこの文章が引用されたほか、書き込みに賛同する人たちが国会前で抗議行動を起こした。

表彰式では、国会質問の中でこのブログを取り上げた民進党の山尾志桜里衆院議員が登壇した。文章を書き込んだ母親や内容に共感し政府に待機児童対策を求めて署名した2万7000人余りの代わりに賞を受け取ると述べた。

ワーキングマザーの割合、過去最高の68.1％に

（僕の）アモーレ

サッカー日本代表でイタリア・セリエAのインテルに所属する長友佑都選手と女優・平愛梨さんの交際を、写真週刊誌「フライデー」が6月に報じた。長友選手は報道陣の取材に応じて「（平さんは）僕のアモーレ。イタリア語で愛する人という意味です」と熱愛をはっきりと宣言。この発言は好感を持って世間に受け入れられ、「◯◯のアモーレ」という言い方が流行語となった。

長友選手が「アモーレ」と呼ぶ平さんが表彰式に現れると、会場の招待客からどよめきが起きた。平さんは「2人で一緒にいただけた賞を大切にします」と語った。

ポケモンGO

衛星利用測位システム（GPS）と拡張現実（AR）の技術を応用したスマホ向けゲーム「ポケモンGO」が世界的に流行した。国内では、“自殺の名所”とされる福井県の東尋坊にプレーヤーが集まるようになり、8月の自殺志願者がゼロになるという効果があった一方、自動車運転中のプレーによる歩行者死亡事故などの問題も引き起こしている。

「ポケモンGO」世界的熱狂の原点と節目を迎えるゲーム市場

マイナス金利

日本銀行は2月、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部について、マイナス0.1%の金利を適用する措置を導入。預け入れに手数料を取られる形となるため、金融機関が日銀に預金する代わりに企業などへの貸し出しを増やすことを狙う。

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盛り土

小池都知事は8月31日、11月に予定されていた東京・築地市場（中央区）の江東区・豊洲への移転を延期した。知事は延期の根拠の1つとして、ガス工場があった移転先の土壌の安全性への懸念を挙げたが、9月10日に新市場の主要施設棟の地下で汚染対策の盛り土が行われていなかったことが発覚。豊洲に移転できるのか、不透明感が増している。

築地からの移転が延期された豊洲市場の水産仲卸売場棟（上）と水産卸売場棟。主要施設の下で土壌汚染対策の盛り土が行われていなかったことが判明した＝10月12日撮影、東京都江東区（時事）

「豊洲へ本当に行けるのか」—混迷深める築地市場の移転問題

今年は選考委員特別賞も選定。熊本地震で被害が出た熊本城の修復のため、寄付を募る制度「復興城主」が選ばれ、大西一史・熊本市長が市のイメージキャラクター「ひごまる」と共に表彰された。

表彰式の壇上に並ぶ受賞者と選考委員