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オノ・ヨーコ:時代を変革したアーティスト=アクティビスト

文化

1960年代、ビートルズに亀裂をもたらした張本人として世界中から非難を浴びたオノ・ヨーコ。あまりにも先駆的であるが故に長く理解されなかったオノのアーティスト、社会運動家としての本質、その功績を振り返る。

《ウィッシュ・ツリー》—皆で夢を現実に

オノの先駆的な考え方や行動は20世紀の人びとの理解を超えていたかもしれない。21世紀の今、ようやく私たちはオノ・ヨーコを理解できるようになった。いや、時代がようやく彼女のイマジネーションに追いついたとも言える。

例えば、彼女が発信しているツイッターを考えてみよう。60年代から展覧会、アート・パフォーマンス、短編映画、電話、出版、レコード、コンサート、さらには屋外看板や新聞広告までさまざまなメディアを用い、個人の内面から社会問題までをメッセージにしてきたオノのことだ。インターネットの時代にソーシャル・メディアを使うこと自体にはなんの驚きもない。だが、140文字のツイートという形式そのものが半世紀前にオノが1人で始めたインストラクション・アートにとてもよく似ているという事実は注目に値する。そう、今では誰もが当たり前に短文で自己表現し、それを相互に拡散している。

オノは1972年のインタビューで、マーシャル・マクルーハンの「メディアはメッセージである(The medium is the message)」を引用しながら、「私たちはみんなメッセージを持っています。そのメッセージ自身がメディアなのです」と述べていた。芸術を特権ではなく万人のものに解放するという先見性は、アンディ・ウォーホルの「未来には誰でも15分間は世界的に有名になれる(In the future, everyone will be world-famous for 15 minutes)」という言葉にも通じる予見だった。みんなが芸術家になるというのは未来の話というより、無数の無名の芸術家がいた太古の芸術の根源性をも連想させる。

観客一人ひとりが願い事を書いて吊るす作品《ウィッシュ・ツリー(願掛けの木)》はオノの考え方をよく表している。心に抱かれた願いは目には見えない。だが短冊に託してもらうことによってそれは実体化される。オノが「1人で見る夢はただの夢、みんなで見る夢は現実になる(A dream you dream alone is only a dream. A dream you dream together is a reality)」という時の「夢」とは、アートを意味するようにも思われる。つまり、1人で作ればアートに過ぎないが、みんなで作れば現実になる。この観客参加型の作品は、実は《カット・ピース》をポジティブに反転したものといえるだろう。

オノ・ヨーコ《ウィッシュ・ツリー(願掛けの木)》(広島市現代美術館「ヒロシマ賞受賞記念オノ・ヨーコ展 希望の路」での展示風景、2011年、筆者撮影)

アイスランドのレイキャビクに建設された「イマジン・ピース・タワー (Imagine Peace Tower)」(写真出典:http://imaginepeacetower.com/)

2007年、アイスランドのレイキャビク沖にある島に設置された「イマジン・ピース・タワー」は、強力な照明装置で光の柱を夜空に投影するもので、平和への祈りがただ一筋に伸びる垂直線として視覚化されている。ここでは1960年代にインターメディアと呼ばれた実験芸術の手法が現代のテクノロジーによって再生されている。その意味では、オノ・ヨーコはメディア・アーティストの先駆者だった。さらにメディアの語源をたどれば、現在のような情報伝達メディアがなかった19世紀においては、メディア=メディウムは絵画制作で顔料をつなぐ媒剤=絵具のことを指すと同時に、スピリチュアルなメッセージを人びとに伝える才能の持ち主=霊媒師をも意味していたという。ならば、想像してほしい。彼女がこれまで人と人、家庭と社会、美術と音楽、前衛芸術と大衆文化、そして20世紀と21世紀といったさまざまな事象をつなぐメディウム的な存在であり、オノ・ヨーコという人間が今ここにいるということ自体が一つのメッセージ=メディアであるのだということを。

(2017年9月25日 記)

バナー写真:2009年5月ニューヨークの「ロックの殿堂博物館別館(Rock & Roll Hall of Fame Annex NYC)」で開催された「John Lennon: The New York City Years(ジョン・レノン:ニューヨークでの日々)」と題した企画展の会場を訪れたオノ・ヨーコ(09年5月11日撮影 AP/アフロ)

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