“超”老舗探訪

小田原の茶製品・和紙の店「江嶋」—創業350年。事業を広げ、伝統も守る

経済・ビジネス

菊地 正憲 【Profile】

城下町・小田原で茶製品、和紙を販売する「江嶋」は、江戸時代から連綿と商いを続ける地域の老舗。関東大震災、第2次世界大戦といった“危機”を事業の多角化で乗り越えながら、伝統ある家業を守ってきた。

五輪にらみ東京再進出を構想

350年余の伝統を受け継ぐ「江嶋」の現在の売り上げ比率は、茶関連が約7割、和紙関連が約3割。店の年商は約2億円で、約10年前よりも2割弱減少している。だが、消費が一気に低迷した2011年3月の東日本大震災直後の約1億5千~6千万円からは立ち直ってきている。

茶関連については、やはり静岡県の掛川市の製茶会社から取り寄せた高級緑茶が主力製品。店内には、「江嶋園」の名を冠した煎茶やほうじ茶、玄米茶のほか、茶道具類が所狭しと並んでいる。昔から使われてきた茶壷や木製の茶箱、量り売り用の計量器も見える。江島さんは「近年は飲料製品が多様化して、消費者の“茶離れ”も進んでいる」ため、販売を促す工夫が求められると強調した。

主力商品の日本茶。「江島園」は地元で知られた茶のブランドだ

量り売りに用いる計量器の周りには、古くから使われてきた「エ」のシンボルマークをあしらった木製茶箱が並べられていた

「今年7月、静岡の製造元と丸1年かけて共同開発した紅茶のようなティーバッグ入りの緑茶を新たに発売したところ、好調な売れ行きです。特に若い人たちは、急須を使ってお茶を入れなくなっているので、簡便さが受けているようです。時流を探る努力は惜しみません」

和紙関連については、江島さんの妻純子(すみこ)さん(44歳)が中心となり、全国各地からの仕入れや販売を担当している。最近では、京都の友禅紙に代表される紙工芸、包装用の色彩豊かな高級和紙に人気が集まっているという。

和紙の取り扱いを担当する江島純子さん。「柔らかい質感と色使い、独特な“手作り感”が持ち味です」

今後について江島さんは、小田原が日本代表チームの合宿地の一つに選ばれた2019年のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会と、翌2020年の東京五輪を大きな好機とみている。

「既にここ数年で中国、欧米からの観光客が目立って増えています。英語と中国語で表記した値札を作成するほか、地元の税務署と相談して免税店化する計画も進めています。健康と長寿の効果があるといわれ、和食にも欠かせない日本茶と、日本伝統の和紙の良さを海外の人にぜひ知ってもらいたいのです」

さらに、伸長著しいインターネットを利用した通販の強化や、人気の「冷緑茶」を海外で売り込むべくハワイへの出店も構想する。同時に、30年ほど前の一時期、運営していた江嶋の「東京店」の復活も目指すという。江島当主は、地元でのブランド力を固めつつ、家業発展のための「新たな商機」を伺っているようだった。

写真撮影=菊地 正憲

バナー写真:「江嶋」に並ぶ茶の道具類。城下町・小田原の老舗らしく、店内の中央で存在感を放っていた

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ジャーナリスト。1965年北海道生まれ。『北海道新聞』の記者を経てフリーに。『AERA』『中央公論』『新潮45』『プレジデント』などの雑誌を中心に人物ルポ、社会派ルポなどを執筆。著書に『速記者たちの国会秘録』(新潮新書/2010年)ほか。

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