日本最大のモスク「東京ジャーミイ」
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東京・渋谷区の代々木上原駅にほど近い閑静な住宅街のど真ん中に、異彩を放つ建築がある。堂々とそびえ立つ一本の塔と、日本では珍しいドーム型の建物。
これが「東京ジャーミイ」と名付けられたオスマントルコ様式のモスクだ。モスクとはイスラム教徒(ムスリム)が集う礼拝堂のこと。アラビア語で「額(ぬか)ずく場所」を意味する「マスジド」が、英語でモスクと呼ばれるようになった。日本各地に点在しているが、日本にモスクが存在すること自体知らない日本人も多いのではないだろうか。
金曜礼拝など集団での礼拝が行われる大きなモスクのことをジャーミイと呼ぶ。日本最大規模を誇る東京ジャーミイのデザインは、トルコ・イスタンブールにある「ブルーモスク(正式名:スルタン・アフメト・ジャーミイ)」に似ている。
水、コンクリート、鉄筋以外の建築資材や調度品はすべてトルコから運んできたもので、約100人ものトルコからの職人が1年にわたって2階の礼拝堂や1階文化センターの内装を手がけ、その見事な装飾はアートとしても鑑賞できる。
日本はロシア革命で追われた難民たちがたどり着いた地
東京ジャーミイのルーツは中央アジアにあった。
「日本の歴史で、残念ながら長い間、イスラム世界との直接の接触はありませんでした。イスラム教徒がある一定の集団で日本に入って来るのは、20世紀に入ってからです。(※1)東京にモスクができたのも、ロシア革命(1917年)で難民となったタタール人の手によるものでした。彼らは中央アジアのトルコ系の民族で、シベリア、中国を経由し、日本にやって来ました。イスラム教徒である彼らが日本で行ったことは、子供たちの学校やモスクを建てることでした。1928年に日本政府から学校設立の許可を得て建設に取り掛かり、1935年に開校しました。礼拝堂(東京回教礼拝堂)(※2)の完成は、学校開校から3年後の1938年でした」と話すのは、東京ジャーミイのイマーム(礼拝を先導する導師)である、ヌルラフ・アヤズ(Nurullah Ayaz)さん。
もはや「砂漠の向こうの宗教」ではない
東京ジャーミイには多くの外国人が礼拝に訪れる。近年は、東南アジアからのムスリムが増えており、アラブ圏の信者が少ないことから、金曜日の集団礼拝の説教(ホトバ)(※3)は、アラビア語ではなく、信者のニーズにあわせて3言語(トルコ語、日本語、英語)で執り行われている。
世界のイスラム教徒の人口を国別で見てみると、一番多いのはインドネシアの2億5千万人、以下、パキスタン、インド、バングラディシュ、エジプト、ナイジェリアと続く。上位4位までの中にアラブ諸国は1国も入っていない。「砂漠の向こうの宗教」と捉えられがちのイスラム教だが、その信者は東南アジアや南アジアに多い。このことからすれば、イスラムという宗教は日本のすぐそこまで来ているといっても過言ではないだろう。
ヌルラフさんは、日本の人々に、もっと気軽にモスクを訪れてほしいと話す。
「いらっしゃる方々にはイスラム教のことをわかりやすく説明します。礼拝堂でのマナーについても教えますので問題ありません。例えば、女性はモスクに入る時、頭に(ヒジャーブと呼ばれる)スカーフを巻きます。持っていない方には髪の毛や露出した肌を覆うための布を入り口で貸出しますのでご安心ください。男性も半ズボンなど肌を露出した服装で礼拝堂の中に入ることはできません。礼拝中は私語を慎んでください。写真も許可なく撮影してはいけません。それ以外は特に厳しい作法はありません。
ただ守っていただきたいのは、礼拝している人の前を横切ってはいけないということです。お祈りの時は、アッラー(神)と自分の間には何も存在しない、というのが原則です。その間を横切ることは、その関係を断つという意味になります」
礼拝の仕方
礼拝は定められた動作によって行われる。礼拝の回数は1日5回の礼拝によって異なる。(1~7が礼拝の基本的な流れ)
東京ジャーミイで出会った人たち
東京ジャーミイで、海外からの旅行者や日本人訪問者に話を聞くことができた。
アロマセラピストの岡部美子(おかべ・よしこ)さん(写真左上)は、以前から、散歩で東京ジャーミイの前を通る度に気になっていたという。なぜか、礼拝から出てくる信者によく声をかけられていたそうで、今回ふらりと立ち寄ったという。「今の日本は宇宙と乖離(かいり)していて、そんな国を憂いているんです。モスクという神聖な場所で精神を安定させると、心が落ち着いて宇宙とつながれますね」
フランスから日本に旅行にきたNasser(ナスル)さん(写真中央上)。現在はドバイで仕事をしている。「東京ジャーミイはネットで検索して知ったよ。東京以外にも京都や広島にも行ったけど、どこもすばらしい。特に広島の原爆ドームは衝撃的だった」とナスルさん。「日本は実にスピリチュアルな国。人も親切だし、何より他の人の価値(values)を尊重してくれて、心が自然と通う気がします」
アラビア書道家の佐川信子(さがわ・のぶこ)さん(写真右上)。幼い頃、サウジアラビアの国旗に描かれたアラビアの文字に衝撃を受け、アラビア書道家の道を志したという。
異文化体験の一環として東京ジャーミイに訪れていたのは、跡見学園女子大学のみなさん。「イスラムは神の形がなく、仏像などのイメージもなく、神と自分との対話がある宗教だと思います。今回の体験でそれが凄く印象に残りました」
取材協力=東京ジャーミイ・トルコ文化センター
撮影=コデラケイ