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ヤンゴンの“山手線”再生へ:渋滞緩和と鉄道近代化への挑戦(上)

政治・外交

2011年に民主化にかじを切り、「アジア最後のフロンティア」として外国からの投資が増えているミャンマー。経済が活性化する一方で、社会基盤(インフラ)の整備がなかなか進まず、新たな社会問題が発生している。都市部の深刻な交通渋滞もその一つ。最大都市ヤンゴンでは日本の支援を受け、国鉄環状線の近代化・リニューアル工事が進んでいる。

鉄道は「低所得者」向け

一部で線路や駅舎の改修が始まったといっても、ヤンゴンの人々にとって鉄道の「近代化・リニューアル」が進んでいるという実感はない。市内の公共交通に占める鉄道割合は1%程度と低く、環状線の利用者は1日約8万人にとどまっている。

ヤンゴン中央駅で乗客に話を聞いたが、リニューアル工事の存在を知らない人が大半だった。仕事を終えてこれから自宅に帰るという警備員の男性(66)は「午後のこの時間は、道路が渋滞するので鉄道を使う。空いているので座ってゆっくりできることもあるしね。出勤の時はだいたいバスだね。帰りは時間によって鉄道とバスを使い分けている」と話してくれた。

ヤンゴン中央駅の環状線ホーム。昼の時間は閑散としている

次の列車の出発時間は手書きのボードで表示される=ヤンゴン中央駅

ホームのかさ上げ、改装が終わった駅のホーム

ヤンゴンのバスの多くは中国製の中古車で、2008年の北京五輪の際に使われた車両が主力で走っている。一方、環状線は日本での寿命を終えてミャンマーに譲渡された、JRや私鉄各社の気動車(ディーゼル車両)が使われている。ディーゼル機関車にけん引された、製造から50年は超えているような客車も現役として乗客を運んでいる。

環状線の料金は現在、近距離でわずか100チャット(約10円)とバスの半額。持ち込む荷物の量に制限がないこともあって、乗客には近郊の行商人も多い。

機関車にけん引される客車。かなり老朽化している

住宅地区にあるパラミ駅

パラミ駅で環状線を乗降する人たち。列車のドアは常時開けたままだ

市場に隣接するダニンゴン駅。ホームや線路が市場と一体化してごった返す

取材に同行してくれたミンミンさん(ヤンゴンにある日本の援助団体事務所勤務)はこう話す。「大学の修士論文を書くために環状線の乗客調査をしたのですが、乗客は比較的低所得層が多い。現状のミャンマーの鉄道は、時間がかかっても安く移動したい人向けの交通手段という位置付けです。日本とは違いますよね。リニューアル後の環状線は定時性が高まり、バスなど他の交通手段と連携して、通学、通勤客が安心して使えるようになってほしいです」

取材・文・写真撮影=石井 雅仁(ニッポンドットコム編集部)

バナー写真:パラミ駅に到着した環状線のディーゼルカー。日本からの譲渡車両で、行き先が「鵜沼」(JR東海・高山本線の駅)と表示されたまま走行している=2018年7月11日

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