地雷のない世界を目指して:英NGOヘイロー・トラストと日本の協力
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おもちゃと勘違いして地雷に触れる子どもたち
地中に埋められた「地雷」。踏んだ者を無差別に殺傷する、卑劣きわまりない兵器だ。戦争が終わり平和な時代になっても、残された地雷は人々の手足を容赦なく吹き飛ばす。
NGO地雷禁止国際キャンペーンの『ランドマインモニター2017』によると、対人地雷などによる死傷者数は、2016年の1年間に8605人。うち2089人が命を落とした。おもちゃと勘違いして地雷に触れ、死傷する子どもたちがいまだに後を絶たない。
日本は米国、EUに次ぐ地雷除去支援国
息を潜めて「獲物」を待つ悪魔の兵器を地球上から根絶しようと、1997年12月に対人地雷禁止条約が締結された。現在、日本を含む164カ国が署名、批准している。欧米を中心とするNGOらが地雷の悲惨さを訴えたことで、1990年代初頭から国際社会の関心が高まり、条約として結実した。
これまで日本政府は、地雷除去活動をしたり被害者の生活再建を支援したりするNGOに資金面で協力してきた。『ランドマインモニター2017』によると、2016年の日本の資金提供額は、約44億円と米国、欧州連合(EU)に次ぐ。
日本が支援する活動の一つが英ヘイロー・トラスト。世界24カ国に約8000人のスタッフを抱え、そのほとんどが現場で地雷除去作業に携わっている。1988年に誕生し、今年設立30年を迎えたこの組織は、世界最大規模の地雷除去NGOだ。
日本政府はヘイローに毎年数億円の資金を援助し、モザンビーク、スリランカ、ウクライナなどでの地雷除去に貢献してきた。同NGOのアジア地域担当ディレクター、キャメロン・インベール氏とプログラム・サポート・オフィサー、ヘレイン・ボイド氏がこのほど来日した機会に話を聞いた。
「究極の庭師」
かつてアフリカとアジアで地雷除去にあたったボイド氏は、日本について「私たちの活動に最も積極的に資金協力をしてくれる国。現地の大使館員らは地雷が除去された土地に足を運び、地元の人とともに喜んでくれました」と語る。
ヘイローと日本の関わりは1998年にさかのぼる。カンボジアの地雷除去現場に日本大使館員を招き、地雷の恐怖を実感してもらえたのが大きかったという。
インベール氏は「カンボジアは世界で最も地雷が多く埋まっている国の一つです。民家や農場のすぐ近くにあり、子どもたちも遊んでいます。実際に現場を見て、地雷の恐ろしさを肌で感じてもらえた。私たちの活動の意義も伝わりました」と振り返る。
ヘイローはこれまで、アフガニスタン、カンボジア、ミャンマー、ラオスなどの農村地における地雷除去に力を入れてきた。実際の作業は、まず森林を伐採して地面が見えるようにする。そして金属探知機を使い、地雷が埋まっている場所を特定。その地面を慎重に掘り起こし、最後に爆薬を仕掛けて処理する。ボイド氏は一連の仕事を「究極の庭師」と表現した。
都市部の地雷除去に日本企業のノウハウ期待
世界中で20万ヘクタールの土地から150万個の地雷を除去したヘイロー・トラスト。現在直面しているのが、中東での活動の難しさだ。イラク、リビア、シリアなどでは都市部が戦場。農村部とは地雷除去の方法が異なるため、さまざまな問題が生じている。
まず破壊された建物の瓦礫(がれき)を取り除くことから始めなければいけない。しかし、瓦礫の中には、未使用の武器や手りゅう弾、即製爆発装置なども残されている。このほかに、戦車を爆破するほど威力の強い地雷も隠れている。これらを効率的かつ安全に除去するには高性能の重機が必要だが、今まで使ってきた地雷除去重機では歯が立たないという。
このため、ヘイローは日本のものづくりのノウハウを学びたいと考えている。今回の来日の主目的もそこにある。日立製作所、コマツ、トヨタ自動車といった日本企業から、既に瓦礫を粉々にするための砕石機やスタッフを現場に移送するための四輪駆動などを購入しているが、日本企業との関係はまだ商業ベースに限られている。インベール氏は「これから日本の企業と、地雷除去のための新しい技術を共同開発していきたい」と語る。
ヘイロー・トラストは2025年までに「世界の地雷ゼロ実現」という目標を掲げている。しかし、13年に年3000人台まで減っていた地雷の被害者は15、16年と大幅に増加し、2001年、02年の水準に戻ってしまった。
「戦争で荒廃した地域にとり、地雷の被害は新たな試練。その除去に取り組むため、日本との絆をさらに強めたい」とインベール氏は力を込めた。
取材・文:ジェームス・シングルトン(ニッポンドットコム英語部)
(原文英語。バナー写真:2017年5月、スリランカ最大の地雷埋設地ムハマライで日本の資金協力により地雷を除去するスタッフ。ヘイロー・トラスト提供)