国際社会とともに

アジアで社会貢献する3人の日本人

社会

グローバル化に伴う経済格差などの問題を解消するため、開発途上国や地域の人々を支援する国際協力の重要性が増している。日本も政府開発援助(ODA)をはじめ、さまざまな民間組織が開発途上国・地域を支援している。2017年6月30日に発表された第48回社会貢献者表彰(主催:公益財団法人 社会貢献支援財団)の受賞者の中から、アジア各地の最前線で国際協力に汗を流す3人の日本人を紹介する。

学校建設を足掛かりに自助努力を説く

認定NPO法人「れんげ国際ボランティア会」ヤンゴン事務所代表・平野喜幸さん

熊本県出身の平野喜幸(ひらの・のぶゆき)さんは20年以上にわたってタイ、ミャンマーなどで国際協力活動に携わってきた。2004年には熊本にある認定NPO法人「れんげ国際ボランティア会」のメンバーとして、ミャンマー難民支援活動に注力。13年からは同会ヤンゴン事務所代表として、少数民族地域や貧困地帯での学校建設に汗を流す。

ミャンマーには小中高の計11年制の教育制度がある。しかし、義務教育ではないので、地方では学校が遠くにあるために通学が困難だったり、貧しい家庭では学校へ通うことすらかなわなかったりするという。平野さんはこうした地域での学校建設を手助けする立役者だ。

この学校建設プロジェクトは、建設資金の4分の1を地域住民が自ら集めることから始まる。村の全世帯から集められなければ、ルールで学校は建てられない。

「村の全世帯からお金を集めるには理由があります。村の団結を強めるためです。子どもたちの将来のために地域をどう変えていくのか、村人が全員で考えなければなりません。軍政時代の苦労を次世代の子どもたちに背負わせていいのか、問い掛けます。ミャンマーが民主化して国際社会の一員になるには、今が絶好のチャンスです。親が変わらずして子どもが変わることはありません」と力説する。学校建設を考える村には何度も通い、膝を突き合わせて議論を重ねる。時には怒号が飛び交うこともあるが、平野さんはこうして村人の自助努力を引き出していく。

集まった資金は学校建設後も、共同水田やもみ殻発電などに使われる。その収益で教員の確保や、教科書・文具の提供、校舎の修繕といった学校の運営費用を賄うという資金循環も生み出している。村人の熱意と努力で学校建設が実現し、それにより地域が活性化したという成功体験は、民主主義を学ぶきっかけにもなる。

新設した学校で訓示を述べる平野さん(上左) 学校の遊具で遊ぶ子供たち(上右) 学校落成の記念撮影。真ん中赤い服が平野さん(下)

学校建設と並行して自主型奨学金制度の運用も進める。ある地区で教師1400人が毎月500チャット(約50円)ずつを奨学金として積み立てた。1カ月で70万チャット(約7万円)、1年で840万チャット(84万円)になる。そこから、高校生1人に月2万チャットが支給される制度だ。ここでも自立する教育の仕組みづくりをサポートする。

さらに平野さんは、建設された学校のソフトを充実させようと、英語の「Hardworking(勤勉な)」「Humble(控えめな)」「Honest(正直な)」「Hospitable(手厚い)」の頭文字をとった4Hスピリッツと呼ぶ指針を実践。平野さんが師と仰ぐタイ人の社会福祉活動家で故ジャナロン・メキンタランクンさんの教えを伝え、4Hを心掛けた行動が幸せを招くと説いている。

「人間は自分の経験と知識でしか物事を測ることができません。だから経験を重ねることが非常に大切なのです。これからは物質面だけでなく、精神面での支援にも重きを置いていきたいと思います」

平野さんの次の目標は、教師を対象にした研修所を作ること。政府に打診し、書類を提出するところまで進んでいる。ミャンマーの民主化に欠かせない教育の質を向上させるため、アクセルを踏み続ける。

新しい教室で真剣に授業を受ける子どもたち

取材・文=片岡 優佳
インタビュー動画撮影・編集=野田 亮介
写真・動画協力=公益財団法人 社会貢献支援財団

バナー写真=ミャンマーで新校舎完成を喜ぶ子どもたち(写真提供=平野 喜幸)

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