国際社会とともに

アジアで社会貢献する3人の日本人

社会

グローバル化に伴う経済格差などの問題を解消するため、開発途上国や地域の人々を支援する国際協力の重要性が増している。日本も政府開発援助(ODA)をはじめ、さまざまな民間組織が開発途上国・地域を支援している。2017年6月30日に発表された第48回社会貢献者表彰(主催:公益財団法人 社会貢献支援財団)の受賞者の中から、アジア各地の最前線で国際協力に汗を流す3人の日本人を紹介する。

人生の復活を子どもたちに

イースタービレッジ・ミンダナオを支える会 祐川郁生さん

フィリピンのミンダナオ島にある児童養護施設「イースタービレッジ・ミンダナオ」は、1996年からフィリピンに滞在していた、神父の祐川郁生(すけがわ・ふみお)さんによる呼び掛けで2002年に誕生した。カトリック札幌司教区と現地のカトリック・キダパワン司教区が協力し、設立から運営を援助している。紛争や貧困などで親を亡くしたり、虐待を受けたりして、親と暮らすことができない0歳からの子どもたちを受け入れ、スタッフと共に生活する。資金は主に札幌市を中心とする「イースタービレッジ・ミンダナオを支える会」や全国の支援者が支える。現在、45人前後の子どもたちや青少年がここでケアを受けている。

戦争の傷痕や貧困で苦しむ子どもたちの姿を目の当たりにした祐川さんは、フィリピンで人々の役に立ちたいと児童養護施設の設立を思い立った。雄大で自然豊かなミンダナオ島がふるさとの北海道に似ていたことが、場所選びの決め手となった。島の中心部に位置する小さな町で、庭付きの一軒家を借りて運営を始めた。施設名にある「イースター」は復活祭の意。「子どもたちが悲惨な状況から復活していく時と場にしたい」という願いが込められている。

「施設に来たばかりの子どもは、心を閉ざしているので表情がありません。でも、衣食住が満足に与えられ、他の子どもたちと一緒にいつでも遊べる環境にいると、時間はかかりますが、表情がだんだん良くなっていきます。子どもの回復力にわれわれが救われている感じです」と目を細める。

子どもたちに聖書の教えを伝える祐川さん(上左) 音楽で施設の結束を高める(上右) 芝生が気持ち良い施設の庭で子どもたちと (下)

2004年には「支える会」の援助を受けて、2700平方メートルの土地に施設を新築。敷地内には広い芝生と南国の花々、マンゴスティンやランブータンなど熱帯果樹の木々を植えるなど、子どもたちが伸び伸びと育つ環境を整えた。

しかし、ここに至るまでにいくつも壁にぶつかった。最初は運営資金など財政面の壁。フィリピン政府からは適正認証は受けているが、財政面での補助がない。そのため、支援者の善意に頼ったり、チャリティーコンサートを開いたりして、資金を集めた。それよりも大きな壁は、ソーシャルワーカーで副施設長のチェチェさんとの文化、考え方の違いによる運営方針をめぐる衝突だった。子どもたちを施設で長く預かることを是とする祐川さんに対し、チェチェさんは「施設の役割は少しでも早く里親を探すこと」と主張した。

「最初の3年くらいはけんかばかりしていましたが、今は私が間違っていたと思います。血がつながっていなくても子どもには、お父さん、お母さんと呼べる人の元で暮らすのが大切であることに気付いたのです。子どもたちと一緒に暮らして、父親になったつもりでいた自分が恥ずかしくなりました」。それ以降、国内外の養子縁組にも前向きに取り組むようになったという。

施設では青年の自立を目的にした訓練プログラムや奨学生制度も設け、教育の機会を保障している。「小さな養護施設ですが、子供たちには大きな夢を持ち、それに向かって行動していってほしいです。大人になって、イースタービレッジの出身であることを誇りに思ってもらえたらうれしいですね」

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