電気自動車の競演
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世界を変えるクルマたち
世界12カ国・1地域から合計176の出展者が集結した東京モーターショー(日本自動車工業会主催)。今回のショーでは「世界はクルマで変えられる。」をテーマに掲げた。会場内には電気自動車(EV)やハイブリッド車、燃料電池車といった環境性能の高い車両がずらりと並んだほか、ガソリンエンジン車の技術を向上させて燃費性能を高めた車両も多数出品された。また、主催者テーマ事業として「SMART MOBILITY CITY 2011」を開催。これまでモーターショーとは縁のなかった大手住宅メーカーや設備関連メーカーがブースを構えて、これからのモビリティと社会の在り方を提案した。
日本ではすでにEVが市販化されており、モビリティとしての基礎的な技術は概ね確立されていると言っていい。このため、今回のショーでは技術的な斬新さよりも、電動車両ゆえの特性を生かした新しい使い方やライフスタイルの提案が目立った。
3.11後の電気自動車
例えば、2009年にEV『i-MiEV』の販売を開始した三菱自動車工業はEVを室内に持ち込み、家庭内の電力需給を可視化、制御するHEMS(Home Energy Management System)と組み合わせる活用法を提案している。また、EVを移動式カフェに仕立てて、営業中は車両に搭載したリチウムイオンバッテリーから電力を得るという展示もあった。
EVを単なるモビリティではなく、蓄電池としても使用するスタイルは以前から提案されていたが、3月11日に発生した東日本大震災を機にその傾向はますます強まっている。
日産自動車は市販EV『LEAF』のバッテリーから一般住宅へ電力を供給するシステムを披露したほか、EVコンセプトモデル『PIVO3』で未来のカーライフを描いて見せた。PIVO3はスマート化した近未来の駐車場「オートメーテッドバレーパーキング」にて活用することを想定。ドライバーが降車したら自動で駐車スペースに収まって充電を行い、ドライバーが携帯電話やスマートフォンで呼び出すと車寄せまで自走してくる。さらに、最小回転半径が2mと小さいのも特徴で、道路幅が4mあればUターンできる。スペースの限られた場所での使用に適した、シティコミューターらしい設計といえるだろう。
スズキが提案する超小型モビリティ『Q-Concept』も小回りが利く、機動力に優れたEVコンセプトモデルだ。半径10km程度の生活圏での移動を想定して設計されたボディは全長2500mm×全幅1300mmとコンパクト。コロンと丸い形状が印象的なドアはスイング式で広い開口部を実現したほか、運転席を回転式としたことで狭い場所でも乗降しやすくなっている。ブースではメインステージを飾った2人乗りモデルのほかに、後席を積載スペースにした1人乗りの「小口配送仕様」と、後席を2人乗りチャイルドシートに換えた「ママ仕様」のモックアップも展示されていた。
ダイハツの EVコミューター『PICO』は全長2400mm×全幅1000mmと、スズキのQ-Conceptよりもさらに小さい。運転手のほか後席に1人乗ることができ、軽自動車と電動機付き自転車との間に位置づけられるモビリティだという。通常モードでの最高時速は50kmだが、人の往来が多い場所や安全への配慮が必要なシーンでは低速モードに切り替えると、最高時速6kmに制限することができる。また、車体をぐるりと囲むように装着されたランプは周囲に存在をアピールするためのもので、警告を発するときは赤色に、低速時は緑色にそれぞれ光る。
次世代EVへ
一方、EVとほかのモビリティとの連携を示したのは本田技研工業だ。今回初披露のEVコンセプトモデル『MICRO COMMUTER CONCEPT』は街中の移動手段として最適な電動カートのコンセプトモデル『TOWNWALKER』とバッテリーを共有できたり、折りたたみ式のコンパクトEVコミューター『MOTOR COMPO』を搭載できたり、ほかのモビリティと組み合わせて使うことができる。ボディは軽自動車よりも小さく、前に1人、後席に2人が乗る個性的なスタイリング。コックピットには円形のハンドルではなく、2本の操縦桿(かん)のようなレバーを操る「ツインレバー・ステアリング」を装備した。ホンダではハンドル誤操作による事故を減らす目的で2003年からツインレバーの研究を続けており、スポーツカータイプのコンセプトモデル『EV-STER』にもこれを搭載している。
さまざまなEVが展示されていたなかで特に異彩を放っていたのが、トヨタ自動車のコンセプトモデル『TOYOTA Fun-Vii』だ。Fun-Viiはボディ全体がディスプレイになっており、色やデザインを自分好みにアレンジすることができる。車内全体もディスプレイで、雰囲気に合わせてインテリア表示を自在に変更可能。しかも、ディスプレイの変更はスマートフォンのように感覚的に操作できる点が面白い。プレスカンファレンスで豊田章男社長が繰り返し口にしていた「クルマがもつ夢」「楽しさ」といったものを具現化したモデルの一つといえる。
昨今、アジア開催のモーターショーではインドや北京などの知名度が上っているが、やはり環境技術やEVの開発実績では日本企業に一日の長があり、東京モーターショーは先進エコカーの集まるショーとして依然大きな意味を持っている。東京から世界へ、新たな未来志向のクルマが発進することに期待したい。
取材・文=林 愛子(サイエンスライター)