日本のポテンシャルを引き出すために:国際女性デー記念セミナー
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駐日欧州連合代表部と駐日オランダ大使館は、2013年3月8日、国際女性デー記念セミナー「キャリア成功の秘訣-各界で活躍する女性に学ぶ」を共催した。1977年に国連総会で制定された国際女性デーは、1904年の同日に、ニューヨークの女性労働者が婦人参政権を求めてデモを起こしたことに由来する。今回のセミナーでは、日本の女性の社会進出の現状や、様々な分野で期待される日本の女性の役割について、情報の共有と活発な意見交換が行われた。
日本の女性の社会進出:G8最下位
ジェンダーの平等や女性の社会進出に対する意識は、日本においても向上してきているが、数値に表れる現状にはいまだ厳しいものがある。
世界経済フォーラム(WEF)の「世界男女格差年次報告書(Global Gender Gap Report)2012」によれば、日本の総合評価は、調査対象国135カ国中101位で、G8の中では最下位となった。
総合 | 経済活動・経済機会 | 教育機会 | 健康・医療 | 政治的関与 | |
---|---|---|---|---|---|
ドイツ | 13位 | 31位 | 83位 | 52位 | 15位 |
イギリス | 18位 | 33位 | 27位 | 93位 | 29位 |
カナダ | 21位 | 12位 | 70位 | 52位 | 15位 |
アメリカ | 22位 | 8位 | 1位 | 33位 | 55位 |
フランス | 57位 | 62位 | 1位 | 1位 | 63位 |
ロシア | 59位 | 39位 | 35位 | 34位 | 90位 |
イタリア | 80位 | 101位 | 65位 | 76位 | 71位 |
日本 | 101位 | 102位 | 81位 | 34位 | 110位 |
世界男女格差年次報告書2012:G8各国の総合評価と詳細
出典:Global Gender Gap Report 2012をもとに作成
セミナーでは、佐村知子内閣府男女共同参画局長が、日本の30歳代の女性の就業率低下を示す「M字カーブ」について報告。これは、日本の女性が結婚や出産を機に労働市場から退出し、子育て後に再び参入している傾向を示す。
佐村局長は、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になる」という「2030(にいまるさんまる)運動」について解説するとともに、この政府目標を社会全体で共有し、達成に向けて取り組んでいかなければならないと述べた。
出典: 内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 平成24年版』
出典: 内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 平成24年版』
日本の女性に寄せられる期待
激しい国際競争を勝ち抜き、経済成長を続けていくためには、大胆なイノベーションを恒常的に行っていかなければならない。そのために必要とされるのが、多様性に富んだ環境(ダイバーシティ)の創出。これは、日本の企業経営陣の間でも、広く共有されるに至った認識である。
モデレーターを務めた石倉洋子慶應義塾大学大学院教授は、パネル・ディスカッションを開くにあたり、そんな時代だからこそ、日本の女性の高い潜在能力が改めて注目されるべきであると述べた。健康で教育の機会にも恵まれた日本の女性の能力が、十分に生かされていないということは、開拓可能なポテンシャルが、日本の社会にいまだ多く残されているということ。つまり、厳しい現状は、日本の将来にとってポジティブな要素ともとらえることができる。
ジェンダー平等のブランド化
ジェンダーの平等や女性の社会進出を促進するためには、取り組み自体が実質的な利益となる仕組みをいかに作るかがポイントとなる。また、持続性を確保するためには、そうした取り組みが、組織の事業戦略の一環として位置づけられることも重要だ。
一例として、女性が働き続けるための環境整備や、女性人材の活用を積極的に行っていることを、企業価値の判断基準にしていく方法が挙げられる。
セミナーでは、佐村局長が、東京証券取引所のテーマ銘柄選定「なでしこ銘柄」(経済産業省との共同企画)を紹介。「なでしこ銘柄」は、企業における女性の活躍状況を「見える化」し、投資家が企業を評価する判断材料として提供する。これがインセンティブとなって、企業経営者の意識を向上させていくことが期待されている。
また、ヨーロッパにおける同様の事例として、世界最大級の総合人材サービス会社ランスタッドの日本法人CEOマルセル・ウィーガス氏が、「ジェンダー平等ヨーロッパ・スタンダード(Gender Equality European Standard)」を紹介した。これは、企業活動におけるジェンダーの平等を評価して一般に公表し、企業のブランド力にしていこうという試み。ランスタッドやPSA・プジョーシトロエン、ロレアル、BNPパリバ、ゼネラル・エレクトリック・エナジーなど、各界の最大手が参加している点が関心を呼んだ。
フレキシブルかつ効率的な労働環境
組織「外」の目を意識するのみならず、ジェンダーの平等に関する取り組みを、内部から事業戦略化していくことも可能だ。
日本では、1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以降、職場での男女平等を確保するための法的整備が進んだ。しかし、パネル・ディスカッションでも問題として提起されたように、労働市場へのエントリーの段階で女性に機会が与えられても、それがなかなか維持されない状況が続いている。
転職によるキャリアアップが一般的ではない日本の場合、「M字カーブ」に沿って一度離職した女性は、再就職しても「指導的地位」に就くことが難しい。また、長時間労働が常態化している状況下、家事や子育てのために残業できない女性には責任あるポジションを任せられない、という考え方も根強い。他方、長時間労働の割に、日本の労働効率はさほど高くはなく、成果は上がっていないとの見方もある。
こうした状況に一石を投じるためにも、勤務時間や場所、雇用形態、人材の評価や配置などにより柔軟な対応が求められている。例えばそれは、ウィーガス氏が紹介したパートタイム幹部や、厚生労働省が導入支援をしている短時間正社員、またはワークシェアという働き方なのかもしれない。
新しいシステムを導入するためには、組織内の大きな変革が必要とされる。しかし、それにより優秀な人材の定着と組織の活性化が図られ、企業の競争力強化につながるのであれば、それも有効な事業戦略の1つとなり得る。
性別を超えた社会貢献のあり方
ジェンダーの平等や女性の社会進出を促進するためには、女性人材の活用が、社会的評価のみならず、経済的価値となるような仕組みをつくることが必要だ。他方、個人がそれぞれの個性や能力を発揮し、より多く、また様々な形で社会に貢献できる状況をつくっていくことは、少子高齢化時代を迎えた日本において性別を問わない課題であるともいえる。例えば、男性の労働を通じた社会経験が子育てに生かされない現状は、日本の社会にとって大きな損失であるという見方もできる。
今回のセミナーでは、女性の活躍についてのみならず、今後の日本社会のあり方や、性別を超えた個人の役割や社会への貢献について、様々な可能性が示唆されたといえる。日本が今後、社会全体の問題としてこれらの課題をとらえ、どのように取り組んでいくかが問われている。
タイトル背景写真=(左から)ニンケ・トローステル駐日オランダ公使、マルセル・ウィーガス氏、清水季子氏、福島理恵子氏、メイヴ・コリンズ駐日欧州連合代表部公使・副代表、遠藤貴子氏、吉田晴乃氏、石倉洋子氏 K KODERA ©EU