【光伸舎】“数える”ことを極めた京都発の計数技術
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ばらばらに落ちるネジを正確に数える不思議
光伸舎の「デジタル・エリアカウンター」(以下:DAC)の動作を見ていると不思議な気分になってくる。トレーの上にばらまかれたネジは、いくつかの列に分かれて移動し、やがて箱の中に落下する。DACは、この落下する途中のネジをセンサーで一つひとつ捉え数えていく。そして空中をばらばらに落下していくネジが正確にカウントされてディスプレイに表示される。ネジが綺麗に整列していないこともあり、いかにも“数えてます”といった雰囲気にはほど遠い。それでもDACは正確な結果を出してくる。
DACはさまざまな物の数を数えている。ボルトやナット、極小のネジやベアリングボール、電子部品、コネクタ、洋服のボタン、といった工業部品から、カット野菜、菓子、サプリメント、ミートボール、唐揚げ、冷凍パン生地、植物の種子、と利用分野はバラエティに富んでいる。その多くは、従来の技術では正確なカウントが難しかった個体だ。
ラインセンサーで物体の影を追跡する
機械に物の数を数えさせることは、実は意外と難しい。計数によく使われる光センサーや秤(はかり)では、物体の形状や重さのばらつきによって、誤差が大きくなってしまう(図1参照)。こうした数えにくい物体の正確な計数を可能にしたのが、ラインセンサーを使った同社独自の計数技術である。
一般的な光センサーが1点だけを監視しているのに対し、DACのラインセンサーは監視線上を通過する物体の影を、毎秒1万回もの頻度で追跡する(図2参照)。光を遮る場所が移動しても、影がつながっていれば1つの物体だと判断することで、穴が空いている物体でも正確にカウントできるわけだ(図3参照)。
同時に、物体の面積も計測しているので、小さな物は異物としてカウントから外し、重なっている物は2個として数えることもできる(図4参照)。同社が特許を所有するこの計測技術では、1つのセンサーで複数列を同時にカウントできるほか、センサーが物体から離れているため水や油、粉塵の影響を受けにくく、非常に小さいものでも測れるなど、数多くのメリットがある。
20年間の試行錯誤が生んだ真似のできない技術
「原理だけを見れば、簡単に真似できそうに思うかもしれません」と同社専務の白川光英氏さんは言う。「しかし、実際に物を正確に数えるためには、搬送部分も含めて数多くのノウハウが必要です。例えば、冷凍パン生地などは生地同士がくっつかないように搬送するのが難しい。試行錯誤を繰り返しながら、計数機を20年間作り続けてきた経験の積み重ねが当社の強みです」
「当社には、国内外の企業から『こんなものは数えられないか?』という問い合わせが続々と寄せられます。例えば、自動車エンジンで使う複雑な形状で隙間の多い金属部品は、光センサーでは捉えにくく、付着した油によって重量が変わるため秤では誤差が大きくなります。とても数えにくい部品ですが、DACを使って正確な数字をカウントし、『長年、出来ないと思っていたことが、ついに出来た』と大変喜ばれたことがありました。また、製薬会社が性能試験のためにドラム缶に詰めた500万錠のサンプルを持ち込み、実際にミス無くカウントできることを確認してから採用されたこともあります」
時代が正確な計数を求めている
同社の計数機は、ここ数年で急激に売り上げを伸ばしている。その理由の一つが、産業界で進むサプライチェーンの最適化と、生産のオンデマンド化だ。多くの製造業では、製品を必要な時に必要な数だけ作ることで、無駄な在庫や廃棄ロスを減らし、急激な需要の変化に対応している。こうした最適化が進むと、納品の単位も重量から個数へと変わってくる。
例えば、同社製品が数多く使われている冷凍パン生地の計数は、冷凍保存技術とコンビニエンスストアの発達がもたらしたニーズだ。コンビニは毎日、店舗ごとの需要予測に基づいて細かく発注量を変える。パンの製造ラインでは、発酵前の冷凍パン生地を計数機で正確に数えて冷凍保存しておくことで、日々変わるオーダーに対応している。
日本ならではの食文化である弁当の製造工場も、計数ニーズの高い現場の一つだ。高齢者向けのお弁当は、栄養管理のため「弁当1個にニンジンを2個入れる」などと細かく決められている。野菜を供給する会社は、カットしたニンジンを正確に数えて出荷しなければならない。
最近、世界的に需要が増えているのが、植物の種子の計数だ。植物の種子は、以前は重量単位や容量で販売されていたが、個数表示に変わってきている。これも技術革新と産業の変化がもたらしたニーズである。最新技術で作られた種子はほぼ確実に発芽するので、植物でも緻密な生産管理が可能になっている。また、高付加価値・高価格な種子では、計数誤差による損失が無視できない。日本では、20年ほど前から付加価値の高いトマトの種などが計数管理で出荷されていた。近年、この動きが海外にも拡大、野菜の種子だけでなく、トウモロコシなど穀物の種子でも計数管理が拡がっているという。
「計数機があまり売れなかった頃には、知人から『これは20年続けるか、莫大な投資をしないと成功しない』と言われたこともありました」と白川氏。実際に20年間開発を続けた結果、性能向上に加えて市場環境が整い、技術が花開いたことになる。
徹底的に掘り下げるのが、京都の企業文化
京都には日本の他の地域とは違う独特の製造業文化があると言われる。京都人である白川氏は、京都の製造業の特徴を「一つの分野を徹底して掘り下げるところ」と分析する。「京都企業は一般には目立たないが、得意な分野だけに集中して取り組んでいるところが多い」と同氏。そして「われわれも、取引先から“やはり京都の会社ですねえ”と言われることがよくあります。京都人はしつこいんですよ」と笑った。経営における「選択と集中」が、昔から京都の産業には根付いているのかもしれない。
「センサーの性能にはまだ余裕があるので、速度や精度はもっとあげられるはず」と白川氏。計数技術の掘り下げは、これからも続きそうだ。
取材・文=木村 菱治
イラスト=井塚 剛