エアモビリティがつくる近未来:日本でも実現に向けた協議会が発足

技術

ドローン技術などを応用し、「空飛ぶクルマ」で人や貨物を運ぶ――。そんな交通革命を目指したエアモビリティ開発構想が熱を帯びている。日本では、8月に発足した「空の移動革命に向けた官民協議会」が2018年中のロードマップ策定に動いている。

空の移動革命

近年、国内外でエアモビリティ(空飛ぶクルマ)の開発構想が相次いで発表されている。米ウーバー・テクノロジーズは2018年5月、ロサンゼルスでの会議で、ダラスとロサンゼルスで20年に試験飛行を行い、23年にはサービス開始を目指すと発表した。欧州のエアバス社は9月、空の交通の未来像として「blueprint for our sky(空の設計図)」構想を発表している。10月には米ボーイング社のデニス A・ マレンバーグCEOが、19年に「空飛ぶクルマ」のプロトタイプを発表することを明らかにした。

エアモビリティには、都市部における移動時間の短縮、離島や山間部での移動の利便性の向上、緊急搬送や物資輸送の迅速化などの効果が期待できる。日本では政府の「未来投資戦略2018」で、「空飛ぶクルマ」実現に向けた官民協議会を立ち上げ、年内にロードマップ(工程表)を策定することが目標として掲げられた。8月に設立された官民協議会には国内外の企業や、研究機関、投資ファンドなどが参加し、ロードマップ策定に向けた議論が始まっている。

空の移動革命に向けた官民協議会のプレスリリースに掲載されたイラスト。東京のビル屋上で離発着するドローンタクシーを描いている

自動運転、衝突回避システムなどが技術課題

「エアモビリティ」は明確に定義されたものではないが、ここでは「短中距離の飛行を目的とした機体」としておく。ヘリコプターは動力装置としてピストンエンジンとターボシャフトエンジンを使っているが、現在開発が進んでいるエアモビリティは運用コスト軽減を図るために電動型が多い。

人が移動する機体は、現行のバイク・乗用車サイズで1名〜数名の搭乗を想定する。貨物用の機体は、宅配便サイズの荷物の輸送を想定している。

水平離着陸型と垂直離着陸型があり、前者の多くは固定翼で滑走路が必要となる。後者は回転翼機(シングルローター、マルチローター、同軸二重反転ローター)、VTOL機(固定翼と回転翼を組み合わせた機体)などが挙げられる。

構想の実現、機体の開発には、安全性、効率性、環境性を満たすことができるかが鍵となる。

安全面では衝突回避や管制システムなどの技術開発や、安全基準の策定、緊急時の対応方法の明確化、法制度の整備などが求められる。効率面では自動運転や、IoT(モノのインターネット)活用による機体のメンテナンスなどが考えられる。運航データを分析し、効率的な運航体制を実現する研究も必要になる。環境面では騒音・景観対策、再生可能エネルギーの利用促進などが求められる。

新たな産業形成、防災対応強化のメリットも

エアモビリティが実現した場合、米ウーバーはeVTOL(電動で垂直離着陸が可能な航空機)で新宿・横浜間を10分で結ぶことができるとしている。

日本では、主要な空港から都市部の中心まで1時間近くかかる場合も多い。また、新幹線が通ってない四国などでは隣の県への移動にも負担がかかっている状況がある。都市の中心部と空港、新幹線の駅などがエアモビリティで結ばれた場合、新たな観光ルートの開拓や、産業クラスターの形成が期待できる。

救急救命用の現行のドクターヘリに加え、警察や消防など公共セクターでエアモビリティが導入・強化された場合、捜索や救急救命、災害対応の迅速化というメリットがある。日本は地震や津波、洪水など大規模災害のリスクを抱えており、社会の安全性を高めるため強力なツールともなり得る。

エアモビリティに関する国内外の動向

エアモビリティの研究開発については、世界で複数のアプローチが存在している。

ウーバーの場合、パートナーとなる企業や政府機関、自治体との連携を重視している。配車サービスを担う同社は都市型エアモビリティの構想やアプリケーション、プラットフォームの開発を中心に行い、機体の開発は、ベル、カレム、オーロラ・フライト・サイエンス、エンブラレル、ピピストレルなど専門メーカーが担う。管制システムについては米航空宇宙局(NASA)との連携を発表している。米国で飛行実験の準備を進めているほか、日本やインド、オーストラリア、ブラジル、フランスなどを候補に試験飛行に向けた協議を行っている。

エアバスやボーイングは航空機メーカーとしての強みを活かして準備を進めている。2018年1月、エアバスの研究プロジェクト「A3」が米オレゴン州で、無人VTOL型試験機「Vahana」の飛行試験に成功した。同社は「Pop. Up」や「City Airbus」、「Skyways」など、世界各地で複数のプロジェクトを推進している。ボーイングは、17年11月にオーロラ・フライト・サイエンスを買収するなど、ドローンやエアモビリティ関連分野を強化している。

スタートアップ企業では、中国のドローンメーカーEhang(中国語名:億航)が16年1月、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で「Ehang 184」を発表した。ドイツのVolocopterは17年9月、フランクフルトモーターショーで「Volocopter 2X」の展示を行った 。米カリフォルニア州に本社を置くキティホークは、アルファベット社のラリー・ペイジCEOの出資を受け開発を行っている。

日本では「カーティベーター」が、空飛ぶクルマの実現に向けてプロジェクトを進めている。自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手メンバーを中心とした有志団体で、愛知と東京を拠点にしている。18年7月にはカーティべイターのメンバーを中心に、「株式会社SkyDrive」(本社:東京、代表者:福澤知浩)が設立された。

日本での社会実装に向けた課題

エアモビリティの実用化を進めるためには、安全な機体・システムの開発が最も重要な要素となる。このほか設計・生産技術の向上、バッテリーなどの要素技術の開発、飛行実験が容易となる環境整備、資金・人材の確保、ルール形成などが求められる。

管制システムや離着陸場などのインフラ整備も必要である。管制システムでは、低高度から高高度までの空の利用方法を設計し、既存の航空機や無人航空機なども含めた安全対策の推進が求められる。離着陸場の整備については他の交通手段との接続や騒音・安全対策も含め、都市構造全体のデザインとも関係してくる。地上インフラも含めて、社会システムとして設計していくことが求められる。

バナー画像:「空の移動革命に向けた官民協議会」の第1回会合(2018年8月、東京・港区)=時事通信

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