ルポ・豊洲市場オープン、新「日本の台所」へ業者前向き:築地は83年の歴史に幕
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「日本の台所」と言われた東京・築地市場(中央区)が83年の歴史に幕を下ろし、2018年10月11日、豊洲市場(江東区)がついにオープンした。小池百合子都知事が就任早々、豊洲の安全性懸念などから築地の移転を延期し、およそ2年が経過。開場当日は周辺道路の渋滞や市場内でのボヤ騒ぎなど多少の混乱はあったものの、魚の競り取引はおおむね順調なスタートを切った。
開場日、市場内に現れた小池知事は、マグロの競りが始まる前の午前5時すぎ、市場関係者らを前にあいさつに立ち「思い出深い築地からの新天地、豊洲市場への移転。(豊洲へ引っ越す)ターレが続くさまをみながら大変胸が熱くなった」と感慨深げだった。
さらに「これまで培われた築地市場での技、目利きの力を豊洲市場へ移していただき、日本の中核的市場として皆さんとともに育て、豊洲ブランドを一日一日積み重ねて素晴らしいものにしていきたい」(小池知事)と引き締まった表情で語った。
開場日は周辺渋滞、火災、事故も
初日の取引はまず、産地から荷を運ぶトラックが周辺の大渋滞に巻き込まれるなど、入荷状況に遅れが目立った。渋滞は都心部と臨海部を結び豊洲市場に直結する幹線道路、環状2号線の開通が新市場のスタートに間に合わなかったことが主な要因。このほか、フロア間を上下移動する垂直搬送機の故障により、市場に到着した魚が予定通りに運べなかったトラブルもあった。
さらに通路で小型車両「ターレ」から出火し、消防車が出動。ターレが市場内の歩行者と接触し、病院に搬送される事故も発生した。
とはいえ、築地閉場後4日間取引がなかったため、豊洲に届いた魚は比較的多かった。生マグロやサンマ、イワシ、アジといった鮮魚はいずれも潤沢で、目立ったご祝儀相場はなかったものの、北海道産のバフンウニに1枚(400グラム)20万円という超高値が出て話題となった。
閉鎖型で衛生管理が武器、使い勝手は?
豊洲市場は築地とは異なり、衛生・温度管理が徹底される閉鎖型の施設である点が、最大の強み。平屋造りで開放型の築地では、取引を待つ魚箱が外気に触れるばかりか「通路に放置され直射日光にさらされることもあった」と市場関係者。暑かった今年の夏は魚たちの鮮度を保つのに相当神経を使ったようだ。
一方、豊洲では魚などの搬出入に、フロア間の上下移動が伴うことが、開場間もない市場関係者を悩ませた。ターレがスロープを使って違うフロアに荷を届ける際、「急カーブの箇所ではかなりスピードを緩めたり、すれ違う時にどちらかが止まったりしなければならない場所もある」と市場関係者は打ち明ける。
施設面積が築地の1.7倍の約40ヘクタールという豊洲市場。水産卸、仲卸、青果は一般道路を隔て、それぞれ別の区画に配置されており、当然、築地よりも業者間の距離が長い。業者が市場に慣れるまで、物流の混乱は続きそうだ。
市場内では移転直後、慌ただしい雰囲気で卸や仲卸をはじめとした市場関係者は取引に追われていた。真新しい市場で、業者の表情は忙しく険しいというより、むしろ生き生きした様子。移転延期の要因となった豊洲の土壌汚染の問題について、心配する声はほとんど聞かれなくなった。
一時は絶望論、安全宣言で開場へ
2017年1月、豊洲市場の地下水調査で、環境基準を大幅に上回るベンゼンやゼロが基準のシアンが検出されるなど、市場関係者にとっては衝撃的な結果が発表された。それ以前には、土壌汚染対策に必要な盛り土がされていなかったことも明らかになっており、豊洲市場と都に対する不信感はピークに達した。
一時は「もう豊洲へは行かれないだろう」と、移転に否定的な見方が支配的だった。こうした中、小池知事は「築地は守る、豊洲は生かす」というスローガンを掲げて移転を決断。専門家の「豊洲の地上部は安全」といったお墨付きを盾に追加対策を打ち出し、18年7月の工事完了、そして業界待望の小池知事による「豊洲の安全宣言」を経て、9月に農林水産相から豊洲市場を中央卸売市場として認可されるに至った。
水産卸はじめ移転推進派からみれば、知事による安全宣言は豊洲移転への着地点。ただ水産仲卸の一部にはなお、豊洲移転に難色を示す向きはあった。現に都が農水相へ豊洲市場の認可を申請した際、農水相に対し「豊洲を認可しないよう求める動きがあった」と市場関係者は打ち明ける。
ところが豊洲市場の開場日は既に17年末に決定済み。18年10月6日に築地が最終市を迎えることも決まっており、築地業者が豊洲へ行かなければ、それは事実上「廃業」ということ。他の市場に移れるわけではないのだ。従って移転反対派といえども「引っ越し準備は着々と進めていた」(市場関係者)。
早くも豊洲人気、築地場外もにぎわい継続
83年の築地の歴史は、豊洲でにわかに実現できるわけではないが、新市場で関係業者は思いのほか、前向きに取り組んでいる。開場後の10月13日からは、一般客が大勢豊洲市場にやってきて、築地の名店として知られたすし店などに足を運び、豊洲はすでに築地に代わる人気スポットとなっている。
豊洲のすし店のネタは当然、ほとんどが豊洲で仕入れた魚であり、訪れた客はみな満足げな表情で堪能している。風評被害を感じさせることはなく、今後もますますにぎわいそうな気配だ。
豊洲の安全宣言以降も都は、地下水や大気のモニタリングを続け、情報公開も継続するという。大雨による地下水の上昇や、大きな地震の際の床のひび割れなど、注意しなければならない点はあるが、都が適切な対応を取れば、市場の安全性は担保されるというのが市場関係者の一般的な見方だ。
きれいで広い豊洲市場。市場内の物流については、しばらく戸惑いはありそうだが、築地ブランドを打ち立てた市場業者だけに、豊洲を新しい「日本の台所」として発展させると期待される。
一方、築地市場は役割を終え、解体作業が進む。跡地は2020年東京五輪・パラリンピックの際、輸送拠点として活用するほか、一部は環状2号線の用地となる。大会後は都の築地再開発計画の検討に委ねられる。小池知事は当初「食のテーマパーク」として再開発する構想を打ち出し、後にややトーンダウンさせているが、まだ具体化されていない。豊洲市場で未整備となっている一般向けの観光拠点「千客万来施設」との兼ね合いが、どう調整できるかが焦点となる。
跡地の利用は、築地市場とともに繁栄してきた築地場外市場にとっても気になる点。場外市場は、銀座に近い立地や、これまで培ってきたおよそ500店による街のにぎわいを継続しようと「場外市場」という名称をあえて残し、今後も「豊洲に負けまいと独自の文化を築いていく」と関係者は意気込んでいる。
バナー写真:開場日を迎えた豊洲市場で、マグロの初競りを視察する東京都の小池百合子知事(中央右)=10月11日午前
写真、映像は全て時事