日本の若者の海外旅行はどう変わったのか

社会

中村 哲 【Profile】

バックパック1つで身軽に異国を長期間旅する若者は、おそらく今では少数派だ。格安航空会社(LCC)の利用やインターネットの進化、SNSの普及などにより、多様化した若者の海外旅行の現在を解説する。

親しい友達とは旅行に行かない

第4に日常の友人とは旅行に行かない若者。

まず一人旅を選ぶケース。なぜかと聞けば、自分はどうしても旅行したいが、「友人と日程が合わない」「友人は旅行費用を用意できない」などの理由をしばしば挙げる。最近では、「旅行中に友人と意見が合わないことを避けたい」「友人と好みが違うので、無理に合わせて不快な旅をしたくない」など、旅行中に他人に気を使わなくてすむ一人旅をあえて選択し、メンタル(気分・感情)の安定を図ろうとする若者も見られる。

このほか、旅行系のSNSを活用して新たな仲間集めをする者もいる。例えば、自分で旅行を企画して提案し、5名以上の賛同者が現れればツアーの催行が決まる「トリッピース(trippiece)」というプラットフォームを利用して、不特定少数の若者が仲間として一期一会の旅行をしている。

第5に留学を1つのきっかけとして旅行をする若者。

2010年代に入ってから、カリキュラムの中に数カ月から1年程度の留学を必修化する大学が幾つか見られるようになった。かつての留学は自発的に行くものだったが、今は必修だから行く学生が増え、いわば「留学の大衆化」の時代が訪れている。数カ月以上の一定期間の海外滞在の中で、他国から来た留学生との交流の機会が生まれ、さらにはフェイスブック(Facebook)でつながり、帰国後も交流が継続する。その結果、留学中に知り合った友人に会うことを目的の1つとして海外旅行に出掛けるケースが見られる。

リピーターと無関心の二極化傾向

ここまで、海外旅行に出掛ける若者を中心にその特徴を述べてきた。だが、もちろん海外旅行に無関心な層も存在する。

例えば、2016年2月に日本人の18~29歳の独身の若者を対象に実施した調査(下図)によると、海外未経験者は51.8%、15年に1回以上の海外渡航をした人は14.7%との結果が示された。つまり、約85%の回答者はこの年に1度も海外渡航をしていない。属性別に見ると、学生の44%が海外未経験、17.7%が15年に1回以上出国している一方で、アルバイト・無職の若者は71.7%が海外未経験、15年に出国したのは6%にとどまっていた。

これまでの観光研究では、海外旅行の障壁として、海外での滞在や言語に対する不安=「個人内阻害要因」、同行者がいない=「対人的阻害要因」、お金や時間の不足=「構造的阻害要因」が挙げられており、これらを解消することにより旅行が実施されると考えられてきた。

しかし、ここ10年ほどの研究で、障壁を取り除いても旅行への関心が欠如している若者がある程度存在するということが分かってきた。そもそも旅行に興味がない、海外は自分には関係ない、海外旅行は費用対効果がよくないなどの理由で、そもそも余暇時間の使い方の選択肢に入れていないのだろう。

先に述べたように、30年以上も前から存在した若者の海外旅行の特徴はいまもなお見られる。同時に、グローバル化の進展、インターネットの進化とSNSの普及、LCCやOTAなどの新たな旅行手段の登場、人間関係の考え方の変化などを背景として、2010年代以降、特にここ5年ほどの間に新たな動きがあることを提示した。時代の動きと連動して、日本人の海外旅行の在り様は変化する。その一方で、海外旅行に全く関心のない人たちが一定程度存在しており、若者の中では、無関心・低関心層とリピーター層に二極化している。

観光庁は2018年7月に「若者のアウトバウンド活性化に関する最終とりまとめ」を公表し、若者の旅行を通した海外体験を推進しようとしている。今後の動きを引き続き注視していきたい。

バナー写真:PIXTA

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玉川大学観光学部教授。専門は観光心理学・観光行動論。1972年生まれ。95年立教大学社会学部卒業。民間企業勤務を経て、2002年立教大学大学院観光学研究科博士課程後期課程単位取得。敬愛大学経済学部専任講師、玉川大学経営学部准教授などを経て17年4月より現職。観光学術学会ならびに日本観光ホスピタリティ教育学会の編集委員。共著書に『「若者の海外旅行離れ」を読み解く』(法律文化社、2014年)など。

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