「国籍」は揺らぎ続ける—世界の潮流から取り残された日本の国籍法

社会

2018年3月、外国籍取得に伴う日本国籍喪失は「違憲」だとして、欧州在住の男性らが提訴。また、昨年の蓮舫議員の二重国籍問題を巡る論議は記憶に新しい。現在の日本の国籍法は、時代の要請に沿うものなのか。歴史的経緯や時代的背景を踏まえ、移民問題を研究する社会学者が検証する。

各国で二重国籍を認める動き

近年、国籍を巡り、世界的に大きな変化が起きている。多くの国々で二重国籍を許容するようになってきた。例えば、経済協力開発機構(OECD)諸国の圧倒的多数が、今では二重国籍を認めている。

また、海外に出て行った元自国民をつなぎ留めようとする動きも顕著に見られる。1990年代後半のアジア経済危機の際に、韓国はデフォルト(債務不履行)に陥り、国際通貨基金 (IMF) の厳しい管理下に置かれた。この時期(99年)に「在外同胞法」を制定し、国籍を離脱した元自国民の帰国や帰国して滞在する期間中の法的に安定した身分を提供している。この動きの背景には、海外の同胞を自国につなぎ留めることで投資を呼び込もうとする政策的意図がある。メキシコも90年代後半に同様の政策を取り、また外国籍になった者の再帰化を容易にもした。

時代の変化に即した法改正を

こうした動きが20世紀の終わりに生じたのは決して偶然ではない。かつて移民と言えば、移った先に居場所を見つけ、移民先の国の人になっていくものであった。発展途上国から移住先への国際移動の費用が高い時代には、移民が戻ることを想定する必要がなかった。

しかし、いまは事情が違う。移民を多く送り出している国は、どこも急速な経済発展を遂げつつあり、国際航空運賃は30年前と比べると格段に下がった。国際的な人の移動を、貧しい国から豊かな国へという単純な一方通行のみで考えることができなくなった。それと共に、グローバル化し定期的に経済変動が生じる現代にあって、いかにして海外に移民した元自国民を引き続き自国と結び付けるかは、どこの国でも大きな政策課題になっている。二重国籍を認める国が増えているのは、こうした新しい国際関係の反映と見ることもできるだろう。日本が人道的な見地から単一国籍主義を取った時代と、明らかに前提が変わったのだ。

そして、日本が父母両系制に変わらざるを得なかったのも単に女性差別撤廃条約への批准だけが理由ではない。日本の国籍法を作る際に参照した欧米各国が父母両系制に変わってしまっていたが故に、今後、国際結婚がさらに増えてきたときに、日本も世界の潮流に合わせないと不都合が生じることが懸念されたためでもあった。

世界の潮流に日本が追いついていないのは、二重国籍問題だけではない。例えば、欧米では同性婚を認めるのが普通になってしまったし、アジアでもすでに台湾が同性婚を認めるようになっている。同性婚を認めず、同性同士の国際結婚に配偶者ビザが適用されない日本で2人が生活を築こうとすれば、さまざまな不都合が生じる。人の移動が双方向に向かい、絶えず誰かが移動してくる社会を念頭に置くなら、どこかで世界の動きと合わせる必要が生まれる。この必要性を無視するならば、残念ながら日本社会の担い手の一員になろうと他国から移ってくる人はいなくなり、少子高齢化の進む社会から活力は失われるだろう。

(2018年4月17日 記)

バナー写真:上野を歩く人たち(2017年4月10日・東京都台東区/時事)

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