加速する中国のイノベーションと日本の対応

経済・ビジネス

中国の技術革新が急速に進み、その技術に裏打ちされた「ニューエコノミー」企業群が台頭している。世界的なイノベーションの源として存在感を増す中国にどう対応すべきか。最先端の現場をよく知る筆者が解説する。

外とつながることが日本の力になる

かつて日本は「工業先進国」としてアジア域内の経済成長に大きく貢献してきた。その後、高齢化に代表される社会的課題が先に顕在化したことを受けて、「課題先進国」としての日本の役割も議論されてきた。

では、人口大国であり、なおかつ壮大な科学技術先進国を目指す中国がイノベーションの源となり始めた時代に、日本はどのような取り組みが必要だろうか。この問題に答えることは容易ではないが、中国と関連する論点では、少なくとも日本企業は以下のような取り組みをしている。

第1の取り組みは、より一歩踏み込んだ共同研究である。例えばソニーのようにコア技術のある企業ですら、中国企業OppoとのCMOSイメージセンサーの開発をしている。日本貿易振興機構(ジェトロ)の2016年の調査データによると、日系企業は中国においてすでに84カ所の研究開発拠点を有しており、これは米国、そして欧州よりも多い数である。実のところ、日系企業は中国で研究開発をしているのである。中国が研究開発の場となるのであれば、これを有効に使うことは理に適う。同時に、中国企業も日本の強い分野、例えば光学分野では日本国内に拠点を設けて研究開発を行っており、国境を越えた研究開発は、もはや一方向ではない。

第2は、成長する中国のニューエコノミー、そしてベンチャー企業への投資である。この領域ではソフトバンクの取り組みが突出しており、同社はソフトバンクビジョンファンドを通じて、世界の有力ベンチャー企業への投資をしている。ほかにも中国のベンチャー企業への投資を行っている日系企業はあるが、プレーヤーの数は限られている。

上記2つは日本の有力企業の取り組みであり、よりリソースが限られた中小企業や、日本発のベンチャー企業が中国とどのような関係と結ぶのかについては、まだ明確な答えは見つかっていない。少なくとも新製品や新サービスが生まれる場所となった中国の主要イノベーション都市を訪問し、現地のベンチャーコミュニティとの交流を深めていくことは大事であろう。

日本政府は「ソサエティ5.0」というスローガンのもと、規制を一時的に緩和する「規制のサンドボックス」制度を通じて、ドローンや自動走行といった新技術の普及を目指している。デジタルエコノミーの領域では、政府や国際機関が国際ルールの策定に関する議論も始まっている。データプライバシーの問題に対応しながらも、新たな技術の社会への導入を加速させることが大事であろう。なぜならば、明確な正解のないデジタルエコノミーやIoT(モノのインターネット)の領域では、試行錯誤の数とスピードで、その後の普及度合いが決まっていくからである。

中国全体が、ある意味で巨大な「規制のサンドボックス」となり、ベンチャーのゆりかごになりつつあることを考えると、そこで何が成功し、何が失敗したのかを注意深く観察することも今後の日本のニューエコノミー、ベンチャー企業、イノベーションを活性化していく上では参考になるはずだ。

より本質的には、日本自体がグローバルなベンチャーエコシステムやコミュニティにどれだけ深く関与できるかも問われてくるだろう。ニューエコノミーは国境を越えて展開する。中国がイノベーションを生み出す時代には、日本もグローバルなイノベーションのエコシステムの一部となっていくことが重要だ。

バナー写真:2017年11月11日、中国・上海で開かれたネット通販大手、阿里巴巴(アリババ)の「独身の日」セールスイベント。同社はこのセールで1682億元(1元=17円換算で約2.9兆円)を売り上げた(時事)

この記事につけられたキーワード

中国 インターネット 技術革新 ベンチャー企業

このシリーズの他の記事