
アダルトビデオ業界で何が起きているか—「AV女優」の人権・権利を守る取り組み
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「無修正AV」配信と海賊版の氾濫
AV業界の動向に話を戻そう。1980年代には出演女優を見つけるのに苦労し、監督が必死の説得をしたといった逸話も聞くが、90年代には望んで出演する女優が現れ、深夜テレビ番組に出演するなど活躍し始めた。非常に大きな利益も得られ、この頃には会社組織がしっかりして納税もするようになっている。21世紀に入ると、出演を志願する女性が大勢来て大半は断られる状況になったと聞く。しかし、私が2017年夏に実施した業界アンケートによると、稼げる女優の発掘は、いまだにスカウトに負う部分が大きい。
10年前あたりから、AV業界の景気は落ち込み始めている。これはインターネットの普及のせいだ。DVDの販売とレンタルに加えて、ネット配信も盛んになったが、この領域では、海外配信の「無修正AV」と言われるものが問題となっている。前述のように、日本のわいせつ物頒布罪を免れるためには性器を見せない映像処理が必要だが、未処理の作品が「無修正」と呼ばれ、日本の女優を使って日本国内で撮影されて海外から配信されているのだ。
2000年代には国内法を適用できなかったが、法改正と法解釈の変更により、11年以降は取り締まり対象である。しかし、摘発は少ない。また、合法AV、無修正どちらも海賊版が売られている。無修正と海賊版という2種類の非合法AVは高く売れるため、売り上げでは合法AVをしのぐかもしれないといわれる。なお、海外で撮影、配信された海外女優の作品は、日本ではほとんど購入されていないようだ。その一因は英語力の不足と推察している。
統一契約書導入で女優の権利を守る
2017年10月、「AV業界改革推進有識者委員会」は同じメンバーのまま「AV人権倫理機構」として再発足し、AV出演の意思がない者が出演を強制されないための取り組みを進めた。具体的には業界の統一契約書を作成し、丁寧な意思確認を基本とした上で、土壇場で辞退しても、撮影準備費用などの名目で損害賠償を求められないようにすることだ。そうした取り組みの過程で、問題は単なる「強要」だけではないことも分かってきた。
第1は、当初「強要」ではなかったが、インターネット配信が当たり前になる前に出演した映像が無期限で誰の目にも触れる状態になってしまったことに驚き、配信停止を求めている女性たちがいることだ。契約上、権利を全て永遠に譲渡しているため、手段として出演強要されたことを理由にするほかなかったと推察される。もちろん、本当の「強要事件」の被害者も自分の出演作品の削除を強く求めている。AV人権倫理機構は郵送された申請書を基に本人確認のうえ、配信停止を勧告することを決め、18年2月に受け付けを開始した。販売後5年以上経過している作品で、現在の生活に支障をきたす場合が対象となる。
第2は、搾取の問題である。業界の景気が悪くなってきていることも原因だが、慣習的にプロダクションは、メーカーから受け取る報酬の総額を女優に伝えないで本人が受け取る金額のみ伝えていた。これについては、総額を女優に必ず伝えたうえで女優の取り分を決めることを義務付けた。残された課題は、合法にAV業界で営業したい会社が、隅々までこれらの自主規制を順守できるかどうかである。
最後に、社会の受け止め方にも触れたい。AV業界の存在自体が女性蔑視であるとして批判するグループがある一方、女性が自ら選んで性行為や性表現する自由を拡大させようという女性解放の志向を持つグループもある。いずれも女性が中心である。男性の大部分は、重大問題と捉えていないのが現状だ。
また、最近ではシングルマザーの女優が目立ってきている。さまざまな事情、状況の中で、生活資金を1人で稼ぐためにAV女優を選択した彼女たちに、「結婚して“普通”の生活を」「“普通”の職業について貧しくても“まとも”な暮らしを」などと強制はできない。見たくない人の目に触れないようにする規制は必要だが、自らの意思で出演する女優やAVを見たい人を禁止することはできない。AV業界で働く女優たち、あるいは意思に反して出演した女性たちの権利を守ることが今一番大事なことだと考えている。
(2016年3月27日 記/バナー写真:PIXTA)