「特別養子縁組」が広がるために—子どもの命を救い、実親・養親が幸せになる制度づくりを

社会

三浦 直美 【Profile】

児童虐待問題を背景に、政府は「実子」として戸籍に記載される「特別養子縁組」の利用促進に動いている。4月には「あっせん法」を施行、さらなる法整備を検討中だが、理想的な制度運用にはソーシャルワークが欠かせない。

適正な事業者育成へ「あっせん法」4月施行

こうした民間団体の多くは、赤ちゃんを虐待死から救い、実母も養父母も幸せになれるようにと信念を持って事業を行っている。しかし、これまで養子あっせんに関する法整備はなく、いわば野放しの状態。児童福祉法が営利目的のあっせんを禁じているものの、極めて不透明かつ不安定な状況にある。

2017年3月には、千葉県の業者が営利目的であっせんをしたとして逮捕され、その後有罪判決を受けた。養父母から225万円を受け取り、実母の最終的な同意がないまま子を養父母に引き渡してトラブルとなったケースで、県から全国初の業務停止命令を受けている。

また、インターネットであっせんを行う大阪のNPO法人が、「産んでくれたら最大200万円相当の援助があります」とホームページに記載し、物議をかもしたこともある。出産に必要な費用や妊娠中の生活費を養親側が援助するという主旨だが、当然「人身売買ではないか」と問題視する声が上がり、大阪市も行政指導に乗り出した。

こうした中、関係者が待ち望んだ法律が成立し、この4月に施行される。「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」、通称「あっせん法」だ。最大のポイントは、あっせん機関がこれまでの登録制から許可制に変わる点。無許可でのあっせんを罰則付きで禁じるとともに、許可を受けた事業者には政府が助成を行う。民間による適正な特別養子あっせんを促進することが目的で、児相と民間との連携・協力も盛り込まれた。

安易なマッチングは排除、ソーシャルワークが肝心

あっせん法施行に向けて、前述のNPO法人「全国おやこ福祉支援センター」も問題とされるホームページ記載を改め、許可を受けて事業を行うべく準備している。代表の阪口源太氏(41)は「ルールができ、やりやすくなった。おかしな業者は入ってこられず、まともにやっている所が最終的に残る」と自信を見せる。2年ほどで全国50〜100カ所に拠点を設けたいという。

もっとも、問題視されたのは「200万円」の記載だけではない。フローレンスなど他の団体が養親候補者とも実母とも何回も面談し、行政や病院との調整も含め半年ほどかけてじっくり意思確認とマッチングを行うのに対し、インターネットでのマッチングは非常にスピーディーだ。他団体などの関係者は「養子縁組がゴールではない。安心して産んでもらい、子どももお母さんも幸せになれるよう自己決定を支えるソーシャルワーク(社会福祉援助技術)が重要。インターネットでそれができるのか」と口をそろえる。

横浜市の清水由衣さん(31)=仮名=は、2017年4月に産んだ子を同センター経由で特別養子に出す予定だった。おなかの子の父親は分からず、産みたい思いと、産んでも1人では育てられないという思いで悩んでいた妊娠4〜5カ月の頃、特別養子縁組制度と同センターについて知った。養子に出すことでほぼ意志が固まっていたが、出産1〜2週間前に自分で育てることを決意。養親候補者が支払った妊娠中の援助費用は、親に立て替えてもらって返還した。

「養子に出してよかった人と、一生後悔する人がいる。自分は恐らく一生後悔した方だと思う」と清水さん。娘をかわいいと思う気持ちは、これまで知らなかった感情だ。結局利用はしなかったが、自分で育てられなくても愛情を持って実子として育ててくれる人がいる特別養子という制度を知り、妊娠中サポートを受けたことには、「いまだに感謝している」と話す。

子どもの命を救い、生みの親も養父母も幸せになれる可能性がある特別養子。縁組ありきの安易・拙速なマッチングは絶対に避けるべきだが、件数を増やすにはある程度のスピード感も必要だ。あっせん法が機能し、本人意思とソーシャルワークを重視した健全な形で発展することが望まれる。

バナー写真:PIXTA

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ジャーナリスト。1991年時事通信社入社。社会部科学班(医療担当)、専門情報誌『厚生福祉』編集長、編集委員などを経て、2017年4月よりフリー。医療、介護、福祉、女性問題が主な取材テーマ。昭和音楽大学音楽療法コース在学中。

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