
"多死社会” 日本-変わりゆく葬送・お墓事情
社会- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
無縁墓の増加、多様化する遺骨の行き先
お墓も大きく変わった。昨今、芝生や花で囲まれた公園墓地や墓石代わりに樹木を植える「樹木葬墓地」など、明るい雰囲気の墓地が増えつつある。「○○家先祖代々」ではなく、「愛」や「ありがとう」といった言葉を彫った墓や、墓石のデザインにこだわった墓も増えている。この背景には、1990年代以降、元気なうちに自分が入るお墓を選んでおこうという機運が出てきたことが挙げられる。
日本の墓は、子々孫々での継承を前提とするのが特徴だが、昨今、少子化や生涯未婚者の増加、核家族化などにより、墓や祭祀(さいし)の継承が困難になり、長らくお墓参りの形跡がない「無縁墓」の増加が顕著になっている。
人口の都市間移動の激化の影響もある。人口が減少していく地方では、無縁墓の増加は特に深刻な問題だ。熊本県や高松市による調査では、3割近くの墓が無縁化しているという。
管理しやすいよう、遠くにある土地の先祖の墓をもっと自宅に近い場所に移す(改葬)人もいる。また継承の問題から、子孫がいても、血縁を超えた人たちで入る「合葬墓(がっそうぼ)」や、継承を前提としない「永代供養墓」を選ぶ人も増えている。さらに、そもそもお墓はいらないと考える人もいる。遺骨を自宅に安置することや、海や山などに秩序をもって遺骨を撒(ま)くことは、法律的には問題がない。
台湾、スウェーデンの選択:行政主導、社会で支え合う
ところで海外の葬送事情はどうなのだろうか。例えば、これまで家族や親族、宗族(父系血縁集団)による相互扶助精神が基本とされてきた台湾でも、少子高齢化や長寿化、核家族化が猛スピードで進んでいる。その結果、家庭内介護の限界、高齢者の孤立など、新たな社会問題が露呈しはじめている。
ここ数年、台北市、新北市、台中市、高雄市などの大都市では、葬儀の簡素化や葬儀費用の負担軽減のために、市主催で複数人のお葬式が合同で行われている。
台北市の場合、遺体の搬送や納棺、遺体安置、葬儀施行までの一切の費用から火葬代にいたるまで、遺族の負担は一切ない。財源は市民からの寄付だという。2012年にこの「連合葬祭」制度がスタートした当初は、実施は週に1日だけで葬儀は832件にとどまったが、17年には週に3日の実施で、延べ1594件の葬儀が行われた。
希望者には、お墓も無料で提供される。台湾の各自治体では自然に優しいお墓のかたちを提案しており、台北では、樹木葬、庭園散骨、海洋散骨はいずれの方法も無料だ。中でも、海洋散骨は行政主導でなければ実施できないことになっており、17年は3月から11月までの間に9回、市主催で専用船を出した。火葬場から船着き場までの送迎や船代、儀式代など、一切がすべて無料だ。
スウェーデンでは、“begravningsavgift” (ビグラヴニングスアヴイフト)といういわば税金のようなものが国民に課せられており、これがお葬式や納骨費用に充当される。自分のお葬式のために積み立てるのではなく、国民でみんなのお葬式にかかる費用を負担しようという趣旨のお金だ。
ストックホルム市民は給料から天引きされるが、その他の自治体では、スウーデン国教会(ルーテル)に属している人は、教会に支払う月会費にこの葬儀費が含まれている。教会がある自治体によって、また教会の規模によってその額は多少異なるが、どんな人が亡くなっても、遺体搬送代、葬儀会場の使用料、遺体安置代、火葬代はかからない。加えて、25年間は墓地を無料で使用できる。国教会に属していない人(カトリック、モスリム、無宗教など)は、直接、給与天引きされる。
日本では、親族がいるのに弔われない死者や遺骨の増加が新たな問題となっている。弔いは、死者と遺(のこ)される人の双方がいなければ成立しない。社会や家族のかたちが変われば、弔いも変容するのは当然だ。弔いはもはや個人や家庭の問題ではなく、社会全体の問題として考え直す必要があるだろう。
(2018年2月9日 記)
バナー写真:墓を持たず、遺骨を自宅で保管するためのさまざまなサービスも生まれている。写真は加工を施した段ボール製の室内墓【2015年東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「エンディング産業展」でニッポンドットコム編集部が撮影】