14人が辞職した富山市議会:地方メディア記者たちの闘い

社会

14人もの議員が辞職した富山市議会の政務活動費不正。これを明るみにした地元のチューリップテレビと北日本新聞の報道に対し、2017年に多くの賞が贈られた。“保守王国”の政治の闇を突き崩した記者たちを取材した。

市議会の“ドン”の不正をスクープ

「市政報告会の回数があまりに多い。それに1回の参加者が300人なんて、そんなに人が集まるのだろうか」。チューリップテレビの砂沢と宮城は、市議会を仕切る“ドン”と言われ、6月の取材妨害の当事者でもある中川の支出伝票に着目していた。書類上は13年度に報告会を8回開き、100万円を超える政活費を受け取っている。支出は資料コピー代で、いずれも同じ印刷会社の領収書が添付されていた。

この頃、宮城は「中川が白紙の領収書を使っている」との情報を入手。裏付けのため、報告会を開催したとされている市立公民館の使用記録を調べたところ、そのような会合が開かれた記録は全くなかった。8月18日に砂沢と宮城は、中川を直撃取材した。市政報告会の有無に関して、中川は「別の場所で開いた。資料の印刷も実際にしている」と説明。しかし、代わりの会場になったという料理店に聞くと、店主は「そのような会合はその日なかった」と証言した。チューリップテレビは翌19日夕のニュースで「自民党の市議が実際とは違う内容の報告をし、政活費を受け取っていた」とスクープした。

中川は30日に議員を辞職。31日に記者会見し、以前付き合いのあった印刷会社にもらった白紙領収書の束を使用し、政活費を不正に得ていたことを認めた(その後の調査で、過去5年間で約787万円の不正が判明)。使途については「誘われたら断れない性分で、飲み代に使った」と述べた。

開いたパンドラの箱、辞職ドミノに

チューリップテレビは続けて9月1日、中川に近い自民党市議、谷口寿一の不正をスクープした。中川が使ったものと同じ印刷会社の領収書で政活費を報告していたことが端緒になった。取材に対し、谷口は不正を率直に認めた。そして「中川に頼まれて」自分が実際に使った印刷代を偽の領収書で水増しし、差額を中川に現金で渡していたことを明らかにした。

チューリップテレビの局舎(左)と、夕方のニュースを終えて打ち合わせをする報道制作局のスタッフら=2017年12月5日撮影

これを機に、取材合戦がヒートアップする。チューリップテレビによると、2013年度分に続き8月16日には14年度分、10月17日には15年度分の支出伝票が開示された。他の報道各社もこぞって情報公開請求に走り、8月下旬からはほぼ先行した社と同じタイミングで資料を受け取ることになった。

北日本新聞の片桐はこう話す。「われわれは7月の段階で1人の県議の政活費不正をスクープ。県議会についてはかなり調べたが、広がりは見られなかった。しかし富山市議会の伝票は、調べれば調べるほどほころびが出た。全国紙も応援の記者を多数富山に派遣して、毎日のように“抜いた、抜かれた”のスクープ合戦が続いた」

同じ筆跡の領収書が何枚も見つかったことで白紙領収書の使用が疑われたり、後から数字を書き加えて金額を水増しした疑惑のある領収書が多数見つかったりした。議員の視察旅行の記録を裏付け取材したところ、全くのカラ出張と判明した例もあった。9月だけで議長を含む10人が辞職に追い込まれ、これまでに計14人が議員バッジを外した。いったん可決された議員報酬を引き上げる条例は、16年12月の市議会で廃止された。

富山市議会政活費不正を巡る経過

2016年4月 議長が市長に対し、議員報酬(現行月60万円)を70~73万円への引き上げるよう求め、市長は諮問機関にかける考えを示す
5月10日 特別職報酬等審議会の初会合(非公開)
13日 審議会が2回目の会合で、月70万円が妥当と結論
19日 審議会会長が報酬増額を市長に答申
5月31日 チューリップテレビが13~15年度の全議員の政活費支出伝票を情報公開請求
6月1日 市が6月定例議会に、報酬を月70万円とする議案を上程
9日 自民の中川勇市議(会派会長)が北日本新聞記者の取材を妨害
15日 市議会が報酬増議案を可決
7月13日 北日本新聞が、矢後肇県議の政活費不正疑惑をスクープ
15日 チューリップテレビの砂沢記者が13年度分の支出伝票コピー約4300枚を受け取る(請求の45日後)
8月19日 チューリップテレビが中川市議の架空請求疑惑をスクープ
8月30日 中川市議が辞職
9月1日 谷口寿一市議が、中川氏の不正に荷担していたことをチューリップテレビがスクープ
これ以降、五月雨式に議員の政活費不正が明るみに出て、10月3日までに12人が辞職
11月6日 市議補選が投開票され、欠員分1人を含む13人の新人議員が当選

(その後、さらに2人が辞職し、辞職議員は計14人に)

チューリップテレビは同年12月30日、一連の経過と報道をまとめたドキュメンタリー番組を放送した。そのタイトルは『はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防』。見かけは立派に見えるものの、実際の中身はからっぽだった議会、そしてその議会となれ合う行政の体質を赤裸々にする内容だ。

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