小池新党失速と野党共闘の失敗:「大義なき解散」でも自民大勝
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10月22 日に実施された第48 回衆院選(定数465)は、自民党が追加公認3人を含め284議席を獲得した。連立を組む公明党の29議席と合わせて与党で313議席を占め、与党の大勝で終わった。憲法改正の発議に必要な衆院定数の3分の2を超えた上、野党のうち日本維新の会や希望の党も改憲に前向きで、安倍晋三首相の悲願とする憲法改正への数的条件は整った。しかし、焦点となる憲法9条の見直しは与党内でも十分な意見の一致を見いだすのは困難で、実現は容易ではない。首相は国民からの期待が強い経済政策を推し進めつつ、憲法改正については野党も巻き込んで幅広い合意を形成していく構えだ。
低調だった政策論争
この国の選挙は往々にして政策論争ではなく、その時々の雰囲気や気分に流されて選挙結果が左右される。今回の衆院選がまさにそうだった。
政策論争が低調だった最大の要因は、安倍首相の突然の衆院解散宣言にある。森友学園と加計学園を巡る問題や閣僚の問題発言などを受けて内閣支持率が低迷し、局面打開を狙って8月に改造内閣を発足させながら、野党が開催を要求した臨時国会の冒頭に、一切の論戦もなしに解散した。
野党から「大義なき解散」と批判された首相は、北朝鮮の脅威と少子高齢化を挙げて「国難突破解散」と名付けたが、総選挙実施による政治空白は危機管理には明らかにマイナスだし、少子高齢化対策の必要性は今に始まったことではない。
また、2019年10月の消費税2%引き上げ分を教育財源に充てるとの今回の公約は自民党内でまともに論議された形跡すらなく、唐突に盛り込まれた。結局、安倍政権の5年間の評価が最大の争点となった。
安倍首相の安定した政権運営の基礎は、国政選挙での無類の強さにある。10月23日の記者会見で首相は「衆院選で自民党が3回連続で過半数の議席をいただいたのはほぼ半世紀ぶり。同じ総裁の下では(自民党)結党以来60年余りの歴史で初めてだ」と胸を張ったのもそのためだ。
衆議院は任期4年の半分を過ぎれば、いつ解散があってもおかしくないと言われる。安倍首相は、来年9月の自民党総裁選と12月の任期満了時期を見据え、今年に入ってから真剣に解散時期を探ってきたはずだ。しかし、安定していた内閣支持率は森友・加計問題で急落し、各種調査では今年6月から7月にかけて支持率を不支持率が上回り、逆風にさらされた。
そこに降って湧いたのが、スキャンダルによる野党第1党・民進党の幹事長人事のゴタゴタだ。東京都知事選、都議選でブームを起こした小池百合子東京都知事が年内にも国政レベルの政党を立ち上げるとの見方もあり、野党の選挙態勢が整わないうちに解散を仕掛ければ、解散を先延ばしした場合よりも勝ちが見込める情勢となった。
内閣改造で支持率下落に一定の歯止めが掛かり①秋の臨時国会を開けば森友・加計問題で再び野党の攻勢にさらされる②北朝鮮情勢がさらに緊迫すれば解散の手足を縛られる③任期満了に近くなると与党有利の状況で解散を打てなくなる――などの要因も決断を後押しした。
衆院解散は小泉純一郎元首相による郵政民営化解散のように、その時々の政策テーマを争点に民意を問うのが常道だ。その意味では今回の安倍首相の電撃解散は「禁じ手」といえる。
野党側もこれに対抗。小池知事自らが急きょ希望の党代表となり、政権交代の受け皿となることを宣言すると、9月1日に前原誠司氏を新代表に選出したばかりの民進党が、小池人気にすがって希望の党への合流を図った。肝心の政策協議はそっちのけ。「禁じ手には禁じ手を」との様相になった。
希望の党の失速
衆院選公示までの話題の中心は、紛れもなく小池氏の動向だった。2016年の東京都知事選で自民党の支持を得られないまま捨て身で立候補し、圧勝。今年7月の都議会選挙では自らが代表を務める都民ファーストの会が都議会第1党に躍り出た。余勢を駆って希望の党を立ち上げ自ら党代表に就任したが、民進党議員への「排除」発言を境に勢いは急速にしぼんだ。
日本人は初物好き、判官びいきの傾向がある。都議選までは強大な勢力を持つ都議会自民党と都議会のドンに敢然と立ち向かうことで、小池氏は有権者の圧倒的な支持を得た。しかし、衆院選公示前の野党勢力の結集局面では、これまでの挑戦者の姿は後退し、権力者目線による排除発言で失速した。急ごしらえの党は有効な政策を打ち出せず、「しがらみ政治からの脱却」というあいまいな訴えは有権者の心に届かず、公示前勢力の確保もできずに惨敗した。結果的に野党共闘の流れを分断し、与党大勝の要因ともなった。
小池氏は新党効果をさらに高めるために都知事を辞めて自ら首相候補として立候補するサプライズを狙っていた節がある。しかし、自民党における「選挙の顔」となりつつある小泉進次郎衆院議員から「小池さんは(衆院選に)出ても無責任、出なくても無責任」と鋭く指摘され、政権選択選挙と位置付けながら身動きが取れなくなってしまった。これまで捨て身の戦法で活路を開いてきた小池氏らしからぬためらいだった。
希望の党には、果たして自民党や民進党、共産党のような意味での国政政党なのかという疑問がつきまとう。政党とは理念や政策が共通する者たちが集まって、その実現に向けて組織的な活動をする団体と定義することができる。衆院選を戦った希望の党は党代表と候補者、選挙公約があっただけで、立党の理念を表す綱領、党運営を定めた詳細な党則や規約、党員や地方組織などを持っていない。いわば小池氏の元に集った私党であり、しがらみ政治からの脱却を掲げた「運動体」にすぎないのではないか。都議選まではその運動が成功したが、国政レベルの運動に昇華(小池氏流に言えばアウフヘーベン)するのには失敗したと言えるだろう。
希望の党の今後はどうなるのか。小池氏が東京都知事の職務に縛られるとすれば、求心力は衰えざるを得ず、希望の党は現在の規模を今後も維持していくのは極めて困難で、分裂・解党の可能性も否定できない。
安倍首相の課題
安倍首相は「日本を取り戻す」をキャッチフレーズに民主党政権を追いつめ、2012年の衆院選で政権交代を果たしたが、最近同じようなフレーズを目にした。
「国家を取り戻す」――。今年10月、ドイツ連邦議会選挙で第3党に大躍進した反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部のスローガンだ。
自国第一主義は、「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ米大統領をはじめ、欧米先進国で勢いを増しつつある。この文脈でみれば、安倍首相はすでに自国第一主義が台頭する世界的な潮流に乗っていると言える。
攻撃的な政治姿勢は首相の特徴だ。対立の構図を作り、野党を挑発するのは国会審議でも見慣れた光景で、森友・加計問題が拡大するまではおおむね成功してきた。衆院選の大勝後も「謙虚」という言葉を連発しているが、言葉とは裏腹に自身の政治信条や政治姿勢に自信を深めているのではないだろうか。しかし、悲願とする憲法改正は憲法9条の扱いを巡って与党内にも慎重論があり、謙虚で丁寧な政権運営が求められる。
国民が安倍政権に最も求めているもの。それが安定した経済政策であることは各種調査で明らかだ。投開票日を挟んで、日経平均株価は政権安定化の期待感から16営業日連続で上昇し、戦後最長を記録した。
しかし、看板に掲げたアベノミクスは、大規模な財政出動と金融緩和を続けながらも経済成長率、物価上昇率とも目標には達していない。2020年度の基礎的財政収支の黒字化の目標はほごにされ、財政規律は揺らいでいる。
緩和政策の効果が十分に上がらない日本とは対照的に、米国と欧州各国は緩和政策からの出口戦略を探り始めた。日本だけが取り残されるような状況になれば、経済的な混乱は安倍政権の足下を大きく揺さぶることになるだろう。
バナー写真:第48回衆議院選挙の開票速報場で、当選確実となった候補者名に赤い花を付ける安倍晋三首相(自民党総裁)=2017年10月22日夜、東京・永田町の同党本部(時事)