巨額の債務超過:破綻寸前の状況続く東芝
経済・ビジネス- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
東芝といえば日本を代表する電機大手であり、世界中に事業を展開する名門企業だった。ところが2年前に発覚した不正会計に加え、突然の巨額損失発覚で信用は地に落ちた。上場廃止の危機が続いており、巨額の債務超過で経営破綻の瀬戸際といった状況だ。ここでは、①なぜこうした異例の事態が続いているのか②東芝は今後どうなるのか――という2つの面から現状を報告する。
損失処理の時期に監査法人が異議
東芝は8月10日、2017年3月期の有価証券報告書を関東財務局に提出し、記者会見を開いて決算発表を行った。決算は本来5月中旬までに発表すべきものであり、3カ月も遅れた。有価証券報告書は6月末までに提出が義務付けられており、財務局に提出の延期を認めてもらい、1カ月半遅れでこの日受理された。決算発表や有価証券報告書提出が期限までにできないのは上場企業でもまれであり、まして東芝のような大手企業では極めて異例だ。
この遅れは、会計監査を担当するPwCあらた監査法人が有価証券報告書の内容を「適正」と認めなかったためだ。その経過から詳しく説明する。
東芝は16年12月27日、子会社だった米原子力大手ウェスチングハウスの米国内での原発建設で巨額損失が発生すると発表した。工期が遅れ、建設費用が大幅に膨らんだためと説明し、6522億円の損失を16年4~12月の決算で会計処理しようとした。ところがPwCあらた監査法人は、「巨額損失が16年12月に出てきたのはおかしい、東芝やウェスチングハウスの経営者はもっと前に認識できたはずで、16年3月期決算(15年4月~16年3月)で損失処理すべきだった」と異議を唱えた。
企業が突然損失を出すことはあり得ることだ。08年のリーマン・ショック後に売上高が急減したり、11年の東日本大震災で生産設備が被災したりして、多くの企業が巨額の損失を計上した。だが正当な理由がなく、数千億円もの損失がいきなり発生することは、企業会計上あってはならないことだ。
東芝は、ウェスチングハウスが15年12月に米国の原発建設会社を買収し、別の下請け会社から建設費用の見積もりをとったところ、人件費や資材の上昇などで建設費が急増するとの報告を受けた。それを、1年かけて精査し、6522億円の工事損失引当金の計上を迫られることになったと説明してきた。
ところが監査法人は、買収した原発建設会社が把握していた数値に基づいて暫定的な見積もりを行えば、もっと早く損失が認識できたと主張し、譲らなかったのである。PwCあらたは結局、「限定付き適正」との監査報告書を提出した。分かりやすく言うと「損失認識時期は公正妥当と認められず、重大な問題がある。ただし、それ以外の部分は適正」といった意見表明である。
東芝は、この「限定付き適正」の監査報告に対し、「見解の相違」であるとし、「当社の決算は正常化した」と表明した。だが、PwCあらた監査法人が「公正と認められない」と指摘した事実は消えない。ここでも東芝は信用を大きく落としたのである。
長引く半導体売却交渉
ウェスチングハウスは2017年3月末に経営破綻し、米連邦破産法に基づく再生手続きを申請した。東芝は原発建設での損失に加え、親会社としてウェスチングハウスの債務保証をしていたため、破綻を受けて総額約1兆2400億円の損失を被ることになった。この結果、3月末時点で約5500億円の債務超過に陥ったのである。
債務超過とは、資産をすべて売却しても負債を返済しきれない状態のことだ。大企業が5500億円という巨額の債務超過に陥ったら、通常は経営が破綻する。会社更生法か民事再生法の適用申請という道を進むことになるだろう。
東芝がそうならない理由は2つある。第1に、業績好調な半導体メモリー部門を売却することにしたことだ。2兆円程度の売値が見込まれるため、債務超過を解消する可能性がある。第2に、半導体部門売却を前提に、融資している銀行団が支援態勢を組んだことだ。銀行がわれ先に「借金を返せ」と回収に走れば東芝の経営は行き詰まり、銀行融資も焦げ付く。それが分かっている銀行団は、売却益が入って債務超過を解消するのを待とうと申し合わせたのだ。
東芝は半導体メモリー部門を別会社化し、その会社の株式を過半数から全株売却することにした。入札を重ねて6月21日、政府系ファンドの産業革新機構を中心とする「日米韓連合」に対し、売却に向けた「優先交渉権」を与えた。日本政策投資銀行、米投資ファンドが加わり、さらに韓国IT大手のSKハイニックスが「融資」で参加すると説明された。
ところが、優先交渉権の決定から2カ月が経つが、いまだに正式契約が結ばれていない。SKハイニックスが「融資」で参加するか「出資」で参加するか調整がつかず、宙ぶらりんになってしまったのだ。相手先と売却契約した後、世界各国で独占禁止法や競争法の審査を受ける必要がある。各国の当局から承認されないと売却は完了しない。審査には半年以上かかるとみられ、タイムリミットである来年3月末までに間に合わない可能性も出てきた。
18年3月末までに売却が完了しなければどうなるか。東芝は2期連続して債務超過となり、東証の規定で上場廃止になる。東芝はすでに8月に東証1部から2部に降格されている。これは17年3月末に1回目の債務超過となったペナルティーだ。上場廃止になると市場で株式を売買できず、株主が簡単に売ったり買ったりできなくなる。公募増資などによる市場を通じた資金調達もできなくなる。東芝にとって大きな痛手だ。
時間切れで上場廃止の可能性
さて、以上のような現状を踏まえ、東芝はこの先いったいどうなるのかを考えてみよう。最も楽観的な見方は、ほどなく売却先が決まって独禁法の審査も2018年3月末までに終わり、東芝が債務超過を解消する道筋だ。
だが、そう簡単にはいかないだろう。仮に8月中に売却先が決まっても、各国の独禁法の審査が18年3月末までに終わる保証はない。もし審査が終わらなければ、時間切れで東芝は上場廃止になる。
上場廃止になると、東芝の経営は破綻するのだろうか。カギを握るのは東芝に融資をしている銀行団の姿勢だ。銀行団は、現時点では東芝を支援する姿勢を続けている。もし売却先が決まり、あとは各国当局の審査待ちという状況ならば、仮に3月末に上場廃止となっても主要行の支援体制は維持される可能性がある。銀行団の支援態勢がしっかりしていれば、すぐに経営が破綻することはない。
ただし、銀行団が支援を続けているのは、東芝が債務超過を解消する見通しがあるからだ。売却先が決まらず、ずるずる時間が経過すれば、銀行が支援態勢を維持できるとは限らない。売却先が決まらないまま18年3月末を迎えて上場廃止になれば、経営破綻という最悪の事態の可能性も出てくる。このため、銀行団は東芝に対し、早期の売却先決定を強く求めている。東芝の経営はまだまだ瀬戸際の状況が続きそうだ。
バナー写真:2016年度末に閉鎖され、解体工事が進む東芝の青梅事業所。東芝は同事業所の土地を野村不動産に約100億円で売却していた=2017年7月28日、東京都青梅市(時事)