アニメ制作の現場が今直面する「危機」

文化 Cinema

新海誠監督の『君の名は。』が国内外で大ヒットするなど、アニメーション業界は活況を呈している。だが、アニメ制作の現場は劣悪な労働環境にあり、このままでは日本発アニメの将来は危ういという。

国レベルでの若手アニメーター育成

最近、自民党の「クールジャパン戦略推進委員会」、超党派の「MANGA・アニメ・ゲームに関する議員連盟」総会で、入江氏がアニメ業界の実情を説明する機会があった。

その際、議員の中からは動画制作の海外依存に関して、他の産業同様に「海外に任せられる部分は任せればいいのでは」という意見が出た。

その認識に危機感を覚えた入江氏はこう説明して理解を求めた。「日本の優秀な原画を元に動画作業している韓国、中国から、優秀な “原画マン” が育ってきている。これは日本が海外でアニメーターを育成しているようなもの。一方で日本国内では優れた原画を動画作業する機会が得られないために学ぶ機会も減っている。このままだと、次には原画を海外に依存することになる。そのうち、“ジャパニメーション”と言っても、実は日本人は全然描いていないという事態になりかねない」

具体的にJAniCAが要望している支援策は、税制面でのアニメ制作会社の優遇、動画担当への助成金、補助金などだ。一方、2009年の麻生太郎内閣時代に浮上して「国営マンガ喫茶」などと批判され立ち消えになった「国立メディア芸術総合センター構想」は、「MANGAナショナル・センター構想」として新たに議員立法の検討が始まっている。単なる “箱物” ではなく、「若手の動画担当がさまざまな勉強(講師を招いての体系的な学習、撮影・仕上げ・音響など他の部署の仕事を学ぶ勉強会など)ができる教育機関の柱として運営してもらうことが理想」と入江氏は言う。

制作会社淘汰の時代へ

アニメーション市場が年々拡大する一方、1本ごとの制作費は20年前から頭打ちになっている。「制作費が増えれば現場が楽になることはみんな分かっているが、例えば制作費を増額してほしいと言えば、他社に仕事を取られてしまうのではという危惧から言い出せないでいるようだ」と入江氏は説明する。

日本のアニメの大半は複数企業が出資する「製作委員会方式」だ。制作会社が制作費増額を要望し、例えば委員会を構成する5社のうち1社が了承しても、他の4社の同意がなければ増額できない。「出資比率も1社だけ抜きんでることを好まない、リスク分散のためのシステムです。それ自体が悪いわけではなく、制作現場の状況が伝わっていないことが問題。制作会社の側が、積極的に声を上げていくべきです」

現在、主な制作会社は400社程度。その中で淘汰(とうた)も進む。最近『この世界の片隅に』の制作会社MAPPAが、新人募集を始めた。当初は契約扱いだが、正社員登用の可能性もある「画期的」な好条件だ。

「MAPPAのような好条件を提示する制作会社は多くの優秀なスタッフを集めることができる。一方、これまで通りの経営を続ける会社や新興の会社は、制作を受注してもスタッフを集められない状況に置かれると思います。優秀なプロデューサー、デスク、作画担当が流出して制作が立ち行かなくなる “老舗” も出てくるのではないでしょうか」

若手が夢を追求できる業界に

新人アニメーターたちの生活が成り立つようになれば、長く仕事を続けるための基礎・土台ができる。目の前の仕事だけでなく、憧れのアニメーター、監督、キャラクターデザイナーなどと一緒に仕事をしたい、さらにオリジナル作品を作りたいという夢や野心の実現につながるはずだ。

入江氏自身は、自らが書き下ろしたコミック「ハロウイン・パジャマ」のアニメ化を目指している。初のオリジナル作品となるこのアニメ制作の際には、動画単価を500円に設定したいと言う。

「若手には、目的意識を持って仕事を続けてほしい。そのためにも彼らが収入を確保できるように業界が一丸となって労働条件の底上げを図らなくてはと思います」

取材・文:ニッポンドットコム編集部

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