アニメ作品の舞台を追体験する「巡礼」:ファンにとどまらない社会現象に

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アニメ映画『君の名は。』の舞台モデルとなった岐阜県飛騨市や長野県の諏訪湖に、国内外から大勢の観光客が訪れている。これまでアニメファンだけの現象だった「聖地巡礼」だが、その対象はさらなる広がりを見せている。

年100万人が「巡礼」。アジア各国や欧米からも

ある推計では、アニメ聖地巡礼者は年間のべ100万人に上るとされる。『君の名は。』によってそれはさらに増えたことだろう。いずれのアニメ聖地にも、カフェ、自治体、駅などに必ずといっていいほど「巡礼ノート」と呼ばれるファンの探訪ノートが置かれている。その書き込みを見ると、日本国内各地からだけでなく、海外からも訪れていることが分かる。アニメは世界の中間層の若者にも人気だからだ。アジアでは台湾を筆頭に、香港、韓国、中国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア。欧米ではフランス、米国などからのファンの書き込みを目にする。

『氷菓』の「巡礼ノート」(写真提供:酒井亨)

とはいえ、アニメ聖地となればそれで万々歳かというと、そう簡単ではない。そもそも、今やアニメによる地域振興は定番となりつつあるため、自治体や商店街が地元を舞台としたアニメを制作してほしいと望んでも、それが実現されるのはきわめて狭き門なのだ。そもそもアニメ制作側の人たちは、いわば職人気質や芸術肌なので、地元の要望は度外視されることが多い。また幸運にも舞台モデルに選ばれても、その作品の評価が高くないと、ファンがつかないし、聖地巡礼に訪れてもらえない。さらに聖地巡礼に来たファンを地元が適切にもてなし、リピーターになってもらえないと、活性化につなげることはできない。

多くの留保は必要だとはいえ、「アニメ聖地巡礼」は、今の日本のポップカルチャーを象徴し、誘客効果が見込まれる社会現象である、という点だけは間違いない。

バナー写真:『花いろ』のラッピング車両(写真提供:酒井 亨)

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