有能な外国人材に選ばれる企業への脱却を

社会

姫田 小夏 【Profile】

国際競争力強化のため、また少子高齢化の中での労働力の担い手として、外国人材の需要は高まっている。だが、外国人材の活用・定着には、日本企業の意識改革が必要だ。

日本語能力以外の資質も評価して

東京・南麻布にあるテンプル大学(本校:米国ペンシルベニア州)日本キャンパスは、その65%が海外からの留学生だ。日本で学びながら米国での学位取得ができることが魅力で、米国を含め、諸外国からも学生が集まるようになった。日本に残り、その先のキャリア形成を希望する学生も増えている。

ところが、同大学就職部の澤健太郎氏は「日本企業と外国人留学生のマッチングはまだ課題も多く発展途上というのが現状です」と明かす。その理由の一つが「『日本語能力試験N1』相当レベルといった要求される日本語力の高さ」にあるという。

日本政府は少子高齢化に伴う日本の若者の減少から、留学生の受け入れとともに優秀な外国人材の定着を狙っており、2008年には「留学生30万人計画」を打ち出した。しかし、採用者・応募者の双方に立ちはだかる「言葉の壁」は厚く、肝心の日本企業は留学生採用になかなか積極的になれない。

そこで今年11月、同大学では上智大学と共催で「日本語能力試験1級レベルにこだわらない企業」を集め、英語によるキャリアフェアを開催した。澤氏はいう。

「留学生の日本語力アップは重要な課題です。一方で、それ以外の資質も評価して門戸を広げるのも一案ではないでしょうか」

外国人材に選ばれる企業に

「日本の企業が求めるのは『見かけは外国人だが中身は日本人』だ」という指摘にも耳を傾けなければならない。ドイツに帰国したアンナ・ペトロワさん(仮名、Anna Petrova、33歳)は、日本で内定時に受けた新入社員向けの外部での研修をこう振り返る。

「あの時の研修はまるで『日本人を作るようなもの』に思えました。日本人がお客さんならこれも仕方がないと自分を納得させましたが」

アンナさんが日本滞在中に最も驚いたのは、「何もかもがマニュアル化されている」ことだった。

「日本企業は一般的にマニュアルを好むと聞いていましたが、これは本当にビックリしました。もう少し自由に行動したいのに、と腹が立つこともありました」

フランス出身のアンドレ・ギョームさん(仮名、André Guillaume、30歳)は、「日本企業ならではの確認業務」に疑問を感じている。「日本では担当者、上司、部長、本部長と、関係者の確認を待つのに2~3日も要する」というのだ。

これは「万が一」のリスクをヘッジする日本ならではの慎重さだが、日本のこの「慎重さ」は、中国をはじめアジアの新興国でもウケが悪い。結果として日本企業には「決断が遅くチャンスを逃す」というレッテルが貼られてしまう。

フランスでは日本文化は評価されているが、日本企業への反応はいまひとつだと言う。「日本企業は “働き過ぎ” というイメージが強い。有給休暇はあっても、フランスと違って連休が取りにくく、社内でも申請しにくい雰囲気を感じます」

グローバル化を急ぐ日本企業、あるいは少子高齢化が進む日本にとって必要なのは、優秀な外国人材であることは間違いない。だが、外国人材に選ばれる日本企業になれるかは、これからの課題だ。「苦言を呈してくれる辛口な外国人材」こそ、日本企業は歓迎すべきだろう。

(2016年12月5日 記)

バナー写真:2016年春、東京の施工会社オムテックに採用されたベトナム人グェン・ミン・ホアンさん(写真提供は筆者)

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ジャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。都内の外国人留学生のサポート活動をしながら、中国やアジアを身近に捉える取材に取り組む。中国ウオッチは25年超、中国滞在経験も長い。著書に『インバウンドの罠』(時事出版)、『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)、『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)ほか。

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