立法会選挙と香港の未来:香港政治が専門の立教大学准教授倉田徹さんに聞く

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野嶋 剛 【Profile】

香港立法会選挙を9月4日に控え、争点が選挙そのものの妥当性に変わった。今後、街頭政治が再燃しかねない状況で、倉田徹氏は、根本解決には香港統治の原点回帰しかないと考える。

倉田 徹 KURATA Toru

立教大学法学部政治学科教授。1975年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。大学院在学中に在香港日本国総領事館専門調査員。金沢大学人間社会研究域法学系准教授を経て2013年から現職。中国現代政治が専門。著書に『中国返還後の香港―「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会)=2010年度サントリー学芸賞

くすぶり続ける街頭政治へのムード

野嶋

 選挙結果がどうであれ、事前に本土派らが排除されたので、結果に不満が残っていくかもしれません。今後、雨傘運動のようにデモや政府に対する実力行使の行動が起きる可能性はありますか。

倉田

 あるでしょうね。ただ、まずは司法での争いになるはずです。選挙が終わった翌日の9月5日には、排除された本土派は司法手続きを始めるとしていますので、当面は法廷の場でこの件は議論されます。結果は予測がつきません。香港の法学者の中でも今回の件が合法か違法かで議論が分かれていて、当分は結果を見守ることになります。ただ、司法でもダメだった場合は、体制に訴えて出るのは無理ということで、リョン氏などは「そうなると革命だ」と言っています。つまり、抗議デモを中心とする街頭政治です。

来年の3月に行政長官の選挙があります。次の政治的な話題はそちらに移っていきます。選挙がある限り、政治的な話題は香港社会で大きなウェイトを占め、街頭政治への動きにつながります。いつ起きるかは予測が難しいです。来年3月の新しい行政長官の選ばれた後はある意味、可能性がもっと高まります。3月以降は選挙が当分ありません。選挙が無いと政府は通すのが難しい政策や法律の審議を進め始めます。国家安全条例の制定を含んだ香港基本法23条の立法も、再び可能性として出てきます。立法化されれば、本土派、独立派の人々は非合法化されて弾圧の対象となります。23条を導入する動きが進めば、2014年と同じような運動になりかねません。

倉田 徹氏

野嶋

 香港社会で人気が全く無い梁振英行政長官が再任される可能性はあるでしょうか?彼をすげ替えることで、香港人の批判的な感情を沈静化させられるという見方もありますし、民主派もそこを強く求めていますね。

倉田

 梁振英行政長官が留任する可能性は高いです。途中で行政長官を変えるのは北京からみれば、ある種、敗北を認めたことになります。長官本人は辞める意思はなく、続けたがっています。本気で続けたい人を辞めさせるには相当な圧力をかけなくてはならず、難しいことです。ただ、彼はカメレオンとも言われていて、その都度立場を変えてきます。今は何をいっても選挙で不利になるので、できるだけ表に出てこないようにしていますね。

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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