世界から“20年遅れ”の日本が女性議員を増やすには

政治・外交

三浦 まり 【Profile】

日本の女性議員の比率は世界でも最低レベル。その状況を生む日本特有の要因を挙げ、女性の政治参画を進めるための具体的施策を提案する。

「性別比例の原則」に向けて公職選挙法改正を

近年では「クオータからパリテへ」の動きが出ており、民主主義の原則として意思決定に男女が平等に参画する男女同数原則が広がりつつある。

「パリテ」というのは男女同数や同等を意味するフランス語だ。フランスが2000年にパリテ法を施行したのを嚆矢(こうし)に、近年ではラテンアメリカ8カ国がクオータ法からパリテ法へと移行し、流れを加速化させている。クオータが女性議員を増やすための「暫定的な特別措置」だとすると、パリテは「普遍的な民主主義原則」そのものだ。

世界から20年遅れている日本だが、まず現状を変えていくためには、パリテの理念を取り入れる必要がある。

パリテの理念を法的に担保していくために、「性別比例の原則」を公職選挙法で規定することを提唱したい。性別比例の原則は、人口比がほぼ男女半々である現実を意志決定の場にも反映させることを求める。両性に対する規定であるため、男性への逆差別という批判は当たらないし、性別比例という概念は、将来的には 「第3の性」の代表にも道を開く。

「重複立候補・同一順位」が障壁に

超党派の「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」 (中川正春会長、野田聖子幹事長、行田邦子事務局長) が取りまとめた「政治分野における男女共同参画推進法」にはパリテの理念が配慮規定として盛り込まれている。推進法が成立すれば、政党は候補者擁立の際に、男女が同数となるよう努力しなくてはいけなくなる。市民社会も女性候補者増加に向けて、政党に対して一層圧力をかけやすくなるだろう。

また、議連は公職選挙法の一部改正を通じて、衆議院比例代表名簿に男女を交互に登載することを可能にする方針を固めている。ネックとなっているのは、「重複立候補・同一順位」の規定だ。現在、政党は小選挙区立候補者を重複して比例名簿に登載することができ、重複候補者に限り同一順位で登載できる。複数の同一順位者の間の順位は惜敗率(小選挙区での得票数をその選挙区の当選者の得票数で割ったもの)で決まる。

多くの大政党はすべての重複候補者を第1位あるいは第2位に並べ、比例単独候補は第1位か、あるいは重複候補者の後に配置する傾向にある。小選挙区において女性候補者が少ないため、比例名簿において女性の単独候補を増やそうにも、第1位に位置付けるくらいしか現実的な方策がないのが現状だ。

重複立候補・同一順位は、「拘束名簿」の原則を事実上崩している。政党が責任を持って候補者の順位付けをする拘束名簿であれば、女性議員を増やしたい政党は男女を交互に登載するなど、名簿順位で配慮することができる。名簿はその政党がどのような議員構成を目指そうとしているのかの“哲学”を示すものであるから、有権者は名簿を見て、その政党の哲学を理解し判断を下すのである。

実際には重複候補者間の順位付けという厄介な問題を大政党が回避した結果、20人近くの重複候補が1位または2位に並ぶことが常態化している。最終的な順位は選挙結果次第であるから、有権者は名簿を見てもそれぞれの政党の“哲学”を理解することはできない。拘束名簿とはいえ、非拘束に限りなく近づいているのが実態なのだ。

議連案では、重複候補者・同一順位の規定は残すものの、同一順位からは1人しか当選できないように改め、同じ候補者が複数の順位で登載されることを認める。こうすれば、完全な男女交互名簿を実現したい政党は、重複候補者を男性グループ(例えば20人)と女性グループ(例えば4人)に分け、それらを交互に載せ、例えば女性グループが第2位、第4位、第6位、第8位と4回登載された後は、女性比例単独候補を偶数の順位に登載することができる。その他、政党の哲学に沿って、さまざまな多様性に考慮し重複候補と比例単独候補を組み合わせることができるようになる。

性別均衡を達成するための法改正や政党の自主的な取り組みにはさまざまなアプローチがある。何か一つで激変するものではなく、日本の民主主義を強化する観点から複数の方法を組み合わせながら、性別均衡を目指していくことが必要だ。

(2016年5月9日 記)

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上智大学法学部教授。1967年生まれ。専門は現代日本政治論、比較福祉国家論、ジェンダーと政治。カリフォルニア大学バークレー校政治学博士課程修了。Ph.D.(政治学)。東京大学社会科学研究所研究機関研究員などを経て現職。主な著書に『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』(編著/朝日新聞出版、2016年)、『私たちの声を議会へ―代表民主主義の再生』(岩波書店、2015年)

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