世界から“20年遅れ”の日本が女性議員を増やすには

政治・外交

日本の女性議員の比率は世界でも最低レベル。その状況を生む日本特有の要因を挙げ、女性の政治参画を進めるための具体的施策を提案する。

女性議員比率は20年前の世界平均

日本における女性の政治参画は著しく遅れている。国会の女性議員比率は衆議院9.5%、参議院15.7%。下院で比較すると191カ国中156位だ(2016年1月現在)。10%にも満たない国は38カ国あるが、日本はそのうちの一つということになる。

現在世界平均は約22%、北京で世界女性会議が開かれた1995年の11%から倍増している。日本では衆議院は1993年総選挙の2.7%(14人)から2014年総選挙の9.5% (45人) へと3倍以上に増えてはいるものの、現状は20年前の世界平均といえる。

アジアにおける女性議員比率(下院)

世界192カ国・地域中の順位 %
20 東ティモール 38.5
21 台湾 38.1
48 ネパール 29.5
54 フィリピン 27.2
67 ベトナム 24.3
70 シンガポール 23.9
72 中国 23.6
105 インドネシア 17.1
112 北朝鮮 16.3
112 韓国 16.3
145 インド 12.0
153 マレーシア 10.4
155 ミャンマー 9.9
157 日本 9.5
172 タイ 6.1
175 スリランカ 5.8

出典:「列国議会同盟」(2016年1月現在)のデータに台湾を追加

参議院は衆議院よりも女性比率は高いが、20%に満たない水準で足踏み状態が続いている。分水嶺は1989年に社会党党首土井たか子氏が引き起こした「マドンナ・ブーム」だ。この時9人の新人女性議員を誕生させ(前後の補選を含めると11人)、6〜7%で推移してきた参院選の当選者に占める女性比率が、17.5%に急増。これ以降、女性比率は下降と上昇を繰り返し、最高値は2007年の21.5%である。

女性の政治参画を阻む世界共通の障壁

一般的に、女性の社会進出が進まないと、候補者となるプールが少ないため女性議員も少なくなる。だが、女性の社会進出に比例して女性議員が増えるわけではない。世界的にみても女性議員比率が20%程度であるということは、世界に共通する構造的な障壁が存在することを意味する。

第一の障壁は、性別役割分業が強固であるほど、家族的責任が女性にだけ重くのしかかり、政治に割ける時間が少なくなることだ。男性議員の場合は、家族的責任を免責されるばかりか、家族が資源となり支援してくれることも多いが、女性の場合、子育てなどの負担が女性に政治家になることを思いとどまらせる要因となる。

第二に、男女の役割に関する通念(ステレオ・タイプ)が挙げられる。「政治は男性のもの」という意識が強いと、女性候補者はとりわけ男性有権者からの支持を集めにくい。男性議員と同じように振る舞うと、今度は「女性だからこそ」応援している支持者の期待を裏切ることになる。

つまりは、性別役割分業の実態と意識が女性の政治参画の足かせとなっている。さらに、候補者を発掘し公認を決定する政党の執行部が男性で占められている場合、「勝てる候補」の基準にこれまでの成功体験とジェンダー・バイアスが潜み、前職と似たような男性を立てることになりがちだ。男性も女性もそれぞれ同性同士のホモ・ソーシャルな人脈を発達させていることから、男性のレーダーには女性が引っかからないこともある。

女性候補擁立に熱心ではない野党第1党

日本に特有な要因もある。それは政党競争のあり方だ。多くの国で女性議員が増える契機は、党勢を拡大したい政党が女性票を狙い積極的に女性候補を擁立したことにある。この戦略が成功すると、他の政党も女性票を奪われないために女性議員を増やすようになる。通常は、中道左派政党が先に女性票に目をつけ、次第に保守党へと同じ動きが伝播(でんぱ)していく。

日本では社会党のマドンナ・ブームがまさしくこのパターンに当てはまり、危機感を抱いた自民党も女性候補者の擁立に積極的になっていった。しかし、1990年代の政党再編成の中で社会党は社民党となり埋没し、代わって野党第1党となった民主党は女性にはあまり人気のない政党であり、また女性票開拓を意識的に行うこともなかった。

逆に2000年代に女性を積極的に擁立したのは自民党だった。2005年の総選挙では16人の新人を含む26人の女性を当選させ、女性議員はほぼ3倍増となった。このとき実は、小泉純一郎首相のリーダーシップの下、比例代表の上位に女性候補者を配置することで、6人増を実現、事実上の「クオータ」(性別割当制)を実施している。その後の自民党はクオータを引き継ぐことはなかったが、候補者数に関しては減少させることはなく、大敗した2009年を除き、2012年に23人、2014年に25人の女性を当選させている。

民主党は政権交代を果たした2009年の総選挙では女性候補者を増やし、40人が当選した。この結果、選挙後に衆議院の女性議員比率は11.3%とはじめて10%を超えた。しかしながら、その後の民主党は女性議員擁立にとりわけ熱心というわけではない。

諸外国のパターンでは、選挙で負けたタイミングで中道左派政党は女性擁立を積極化させている。民主党、あるいは現在の民進党は、世界潮流とは異なる独自の路線を取っており、このことが日本全体の女性議員比率を低いものにとどめているといえるだろう。

また、2005年の「小泉チルドレン」にしても、2009年の「小沢ガールズ」にしても、男性の権力者が女性候補者を選ぶ構図になっており、1989年の「マドンナ議員」のように女性が女性を押し出すものではなかった。

男性が女性を選ぶ限り女性票の掘り起こしも困難だ。各党で女性リーダーが率先して女性有権者とつながろうとしない限り、性別均衡に向けた新しい政治文化を作り出すことはできないだろう。

アジアでも広がる「クオータ」施行

女性議員比率の世界平均が20年で約2倍へと上昇した最大の理由は「クオータ」の普及にある。現在120カ国以上で何らかの形のクオータが施行されている。クオータは基本的には議席割当制と候補者割当制とがあり、対象は女性のみでも両性に対してでも設計でき、配分は10%〜60%までさまざまだ。

1970年代に北欧を中心に政党が自主的に党則にクオータを盛り込んだのが始まりだが、1990年代に法的クオータがラテンアメリカで導入され、現在はヨーロッパにおいても法的クオータが広がりつつある。

アジアでもクオータは普及しており、女性議員比率が30%を超えている東ティモール(38.5%)と台湾(38.1%)では法的クオータを実施している。台湾は議席割当と候補者クオータを組み合わせる独特の手法を用いている。韓国も法的に候補者クオータを導入し、女性議員比率は17.0%となっている。

「性別比例の原則」に向けて公職選挙法改正を

近年では「クオータからパリテへ」の動きが出ており、民主主義の原則として意思決定に男女が平等に参画する男女同数原則が広がりつつある。

「パリテ」というのは男女同数や同等を意味するフランス語だ。フランスが2000年にパリテ法を施行したのを嚆矢(こうし)に、近年ではラテンアメリカ8カ国がクオータ法からパリテ法へと移行し、流れを加速化させている。クオータが女性議員を増やすための「暫定的な特別措置」だとすると、パリテは「普遍的な民主主義原則」そのものだ。

世界から20年遅れている日本だが、まず現状を変えていくためには、パリテの理念を取り入れる必要がある。

パリテの理念を法的に担保していくために、「性別比例の原則」を公職選挙法で規定することを提唱したい。性別比例の原則は、人口比がほぼ男女半々である現実を意志決定の場にも反映させることを求める。両性に対する規定であるため、男性への逆差別という批判は当たらないし、性別比例という概念は、将来的には 「第3の性」の代表にも道を開く。

「重複立候補・同一順位」が障壁に

超党派の「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」 (中川正春会長、野田聖子幹事長、行田邦子事務局長) が取りまとめた「政治分野における男女共同参画推進法」にはパリテの理念が配慮規定として盛り込まれている。推進法が成立すれば、政党は候補者擁立の際に、男女が同数となるよう努力しなくてはいけなくなる。市民社会も女性候補者増加に向けて、政党に対して一層圧力をかけやすくなるだろう。

また、議連は公職選挙法の一部改正を通じて、衆議院比例代表名簿に男女を交互に登載することを可能にする方針を固めている。ネックとなっているのは、「重複立候補・同一順位」の規定だ。現在、政党は小選挙区立候補者を重複して比例名簿に登載することができ、重複候補者に限り同一順位で登載できる。複数の同一順位者の間の順位は惜敗率(小選挙区での得票数をその選挙区の当選者の得票数で割ったもの)で決まる。

多くの大政党はすべての重複候補者を第1位あるいは第2位に並べ、比例単独候補は第1位か、あるいは重複候補者の後に配置する傾向にある。小選挙区において女性候補者が少ないため、比例名簿において女性の単独候補を増やそうにも、第1位に位置付けるくらいしか現実的な方策がないのが現状だ。

重複立候補・同一順位は、「拘束名簿」の原則を事実上崩している。政党が責任を持って候補者の順位付けをする拘束名簿であれば、女性議員を増やしたい政党は男女を交互に登載するなど、名簿順位で配慮することができる。名簿はその政党がどのような議員構成を目指そうとしているのかの“哲学”を示すものであるから、有権者は名簿を見て、その政党の哲学を理解し判断を下すのである。

実際には重複候補者間の順位付けという厄介な問題を大政党が回避した結果、20人近くの重複候補が1位または2位に並ぶことが常態化している。最終的な順位は選挙結果次第であるから、有権者は名簿を見てもそれぞれの政党の“哲学”を理解することはできない。拘束名簿とはいえ、非拘束に限りなく近づいているのが実態なのだ。

議連案では、重複候補者・同一順位の規定は残すものの、同一順位からは1人しか当選できないように改め、同じ候補者が複数の順位で登載されることを認める。こうすれば、完全な男女交互名簿を実現したい政党は、重複候補者を男性グループ(例えば20人)と女性グループ(例えば4人)に分け、それらを交互に載せ、例えば女性グループが第2位、第4位、第6位、第8位と4回登載された後は、女性比例単独候補を偶数の順位に登載することができる。その他、政党の哲学に沿って、さまざまな多様性に考慮し重複候補と比例単独候補を組み合わせることができるようになる。

性別均衡を達成するための法改正や政党の自主的な取り組みにはさまざまなアプローチがある。何か一つで激変するものではなく、日本の民主主義を強化する観点から複数の方法を組み合わせながら、性別均衡を目指していくことが必要だ。

(2016年5月9日 記)

バナー写真:衆議院北海道5区の応援演説を行う民進党の女性議員たち。蓮舫代表代行(右から2人目)、辻元清美衆院議員(右)、山尾志桜里政調会長(左から2人目)【4月16日北海道札幌市内/時事】
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