AKB結成10周年—音楽市場の「地殻変動」を乗り越えられるか

文化

増澤 貞昌 【Profile】

本拠地である東京・秋葉原のAKB48劇場が2015年12月開業10周年を迎えた。10年間抜群の人気を維持してきたAKBだが、音楽市場の「地殻変動」の中で、さまざまな課題に直面している。

音楽配信サービス拡大を踏まえた「ライブ系ビジネスモデル」

CCCDが物議を醸していたまさにその時期、AppleがiPodとiTunesを発売し、音楽のダウンロード販売を本格的に開始した。ソニーも2004年にダウンロード配信の「mora」を開始している。果たして、これらのダウンロード販売がCD・音楽DVDなどのパッケージ商品の売上減少を補うだけの規模になったのだろうか?

結果としては、図2が示すように、ダウンロード販売による売り上げは限定的で、パッケージ商品の販売減少を補うには至っていない。

さらに、いまやこれらダウンロード販売だけではなく、「Spotify」のような定額制のアプリも出てきている。これらは毎月定額を支払うことで、音楽が聴き放題になるというサービスである。

日本では「LINE MUSIC」、「AWA」などのサービスが展開されている。これらはダウンロードとは違い、月額フィーを権利者で分け合う構造であることから、ダウンロード販売に比べて、レーベルによっては受け取る金額がさらに小さくなる。

このように、技術の発展によって、音楽ビジネスは変容してきた。AKB48の通ってきた10年は、まさにこの技術の変動時期であり、同グループはこれを敏感に捉えて、握手会のようなライブ系のビジネスモデルにうまく転換してきた結果、CD販売においては5年にわたり圧倒的な強者として生き残っていると言える。

映画館で「ライブ」コンサート―「ライブ・ビューイング」

ライブビジネスの弱点は「キャパシティの上限が売り上げの上限」であることだった。AKB48は握手券を売ることで、一人ひとりの単価を向上させ、この上限をまず持ち上げた。また、スマートフォンを使った通販も一般的となった。これらはライブ会場においても積極的に活用され、ライブ会場における物販についても、当日の在庫量を超えた販売をすることが可能になっている。

さらに、ある技術革新によって、今度はキャパシティそのものの上限が拡大しつつある。それが「ライブ・ビューイング」だ。

ここ数年で映画業界は「デジタル映像配信技術」の向上・普及に努めてきた。いまや、多くの新しい映画館では、デジタル映写機をそなえ、ほぼリアルタイムに近い形でさまざまな映像をインターネットや通信衛星を通じて、配信することが可能になった。

これによって、「さいたまスーパーアリーナで行われているライブを福岡でリアルタイムで見る」ということが物理的に可能になり、実際に、ライブ・ビューイングイベントは年々増えている。

従来は、会場の収容人数の上限が集客の上限であったが、同時中継配信を行うことで、全国の映画館を「キャパシティ」として使うことができるようになったのだ。

「さいたまスーパーアリーナで行われているライブを福岡で見ることが出来る」と書いたが、ライブ・ビューイングで満足が得られるのであれば、逆も可能だ。つまり、ライブそのものは地方で開催し、その映像を大都市圏に配信して、現地だけでは到底不可能な大人数を動員し、収益を上げる、という方法だ。

AKB48に立ちはだかる「2016年問題」

折しも「2016年問題」が持ち上がっている。2020年の東京オリンピックに向けて、大きなライブ会場が次々に建て替え・閉鎖となり、キャパシティが激減することが指摘されている。

東京で開催できないイベントを地方に誘致して、その映像を全国の大都市圏に配信することは今後より大きなビジネスになると見込まれている。

音楽配信ビジネスを踏まえて、ライブビジネスに移行したAKB48グループであるが、この2016年問題を「ライブ・ビューイング」で乗り越えることはできない。なぜなら、遠く離れた映画館では、「メンバーと実際に握手する」ことはできないからだ。少なくとも現在の技術では。

ファン層の高齢化や、ネタのマンネリ化、そして、2016年問題といったさまざまな課題を、AKB48グループがどう乗り切っていくのか。これからの新しい10年の動きに期待される。

(2015年12月16日 記)

タイトル写真=2015年6月、第7回AKB48選抜総選挙の選抜メンバーたち/時事
▼あわせて読みたい
AKB48に見る次世代コンテンツ戦略 永田 寛哲 AKB48、ももクロ、橋本環奈―ライブアイドル・ブームが映し出す消費の「世代格差」 宇野 常寛 日本の音楽業界:低落基調に逆戻り イアン・マーティン

この記事につけられたキーワード

音楽 アイドル 音楽業界

増澤 貞昌MASUZAWA Sadamasa経歴・執筆一覧を見る

nippon.com編集企画委員。1999年より株式会社リクルートのモバイルサイト制作に携わる。2000年ギガフロップス株式会社を設立。株式会社サイバード、株式会社シゲル、株式会社鎌倉新書入社(取締役在任中にマザーズ上場)を経て、20年、株式会社図解チーフ図解オフィサーに就任する。一貫してインターネットコンテンツの企画・プロデュースを行う。SEO、モバイル分野、終活分野に強み。

このシリーズの他の記事